次世代継承学

【第81話】極限まで磨き上げた実力者の背景に感動する。

「サッカーのフィジカルレベルとゲームスピードの向上により、選手たちは以前よりも高いリスクに晒されている。選手の価値をどう守っていくのかは今後の課題だ。」
プロクラブでデータ分析を担当されている方とお話をした際に、スポーツの価値について考えさせられる言葉を頂きました。

「試合数の増加がクラブやリーグの利益に繋がる。」
利益を確保出来なければそもそも興行が成り立たないという意見があります。
試合数の増加が収益を増やし、スポーツの人気を高めると。
ファンはより多くの試合を望んでおり、それに応える必要があるのだと。

「選手は人間であり、健康とキャリアの持続可能性に目を向けるべきなのではないか。」
一方で、選手が商品として扱われていることに違和感を覚えるという意見があります。
過密スケジュールは怪我のリスクを高め、精神的な負担も大きいと。
選手の健康とキャリアの持続可能性が最優先されるべきなのだと。

サッカーの国際大会であるFIFAワールドカップは、4年に一度開催される、世界を揺るがす祭典です。
カタールで開催された2022年大会は、アルゼンチンが優勝してリオネル・メッシが名実ともに歴史に刻まれたことで有名です。

実はこの大会が、2026年から参加チーム数を32から48に増やし、試合数を64から80に増やされる予定です。

アジアの出場枠が4・5から一気に8・5に増えた。
同時にFIFAランキング上位と下位の力の差があまりに大きくなり、このままだと予選への興味が薄れてしまうことが怖い。
78年アルゼンチン大会までアジア・オセアニア枠は1つしかなかった。
1994年W杯米国大会アジア最終予選が行われた30年前、アジア枠はわずかに2だった。
だから「ドーハの悲劇」が生まれ、3・5枠になった98年フランス大会で初出場を果たし、そのときの戦いが「ジョホールバルの歓喜」と呼ばれた。
26年北中米大会の出場枠は32から48に増える。
そしてアジア枠は4・5から8・5枠になり、それでも放映権料はどんどん高騰していく。
ファンの思いとは別の次元で、マネーゲームは繰り広げられていく。

月刊ラモス

「スポーツはビジネスだ。」
これにより、放映権料やスポンサー収入などの収益が約60%増加すると見込まれています。
また、世界各国のリーグでも、試合数の増加により、観客動員数やグッズ販売などの収入が増える可能性があります。

今までワールドカップの大舞台から遠かったチームにより多くのチャンスが回ってくる。
それに伴い、普段はあまり見られない世界中の異なった地域からのチーム同士による対決が実現することにもなるでしょう。

しかし、選手の健康や人権を軽視することは、倫理的な問題や社会的な批判を招きます。

例えば、ケガや故障が増加し、キャリアを早期に終える選手や、引退後に慢性的な痛みや障害に苦しむ選手が増える可能性があります。

サッカー界における選手の過密スケジュール問題は、長年にわたる議論の的となっています。
FIFPRO(国際プロサッカー選手会)の最近の報告によると、若い選手たちが過去の偉大な選手たちと比較して、はるかに多くの時間をピッチ上で過ごしていることが明らかになりました。
例えば、ヴィニシウスは22歳までに18,876分間もプレイし、これはロナウジーニョの2倍以上です。
ペドリやムバッペも同様に、過去の選手よりも多くの時間をプレイしています。

ザ・ワールド

「勝利を目指すために、選手を商品に見立てて売買を展開する。」
選手の健康や人権を無視した結果、才能が消えていく現実が明らかになった時、ファンやスポンサーの離反や抗議を招く可能性があります。
また、選手のパフォーマンスやモチベーションの低下により、試合の質や魅力が損なわれることも考えられるでしょう。

しかしながら、選手の将来性を考えて試合数を減少・制限することは、クラブやリーグの収入が減少し、経営や運営が困難にするでしょう。
また、試合の機会や多様性が減ることで、ファンや視聴者の満足度や関心が減退することもあるでしょう。

ファンや視聴者の楽しみや期待が減少し、サッカーへの関心や人気が低下すれば、そもそもプロスポーツとして成立しなくなります。

必ずしも相応しい実力を持ったチームが優勝するとは限らない状態。
前評判が高くなかったチームがトーナメントを勝ち上がって、大会が盛り上がる番狂わせはファンを興奮させてくれます。

しかし、2022年ワールドカップは違いました。

「2022年ワールドカップは、波乱が起きることを喜ぶファンが少なかったような気がする。」
アルゼンチンの英雄リオネル・メッシは、ワールドカップ優勝以外のすべてのタイトルを獲得していた選手でした。
例えば、世界で最も権威あるバロンドールという個人を称える賞は一度でも獲得すれば歴史に名を刻む選手と言われています。

それをメッシは7回獲得していました。
この時点で、誰もが世界一のサッカー選手と疑わない実績です。

「もしメッシが、2秒先の未来が見えていると言われたら、素直に信じるよ。」
凄さを語る証言は世界中にあります。
もしも未来予知をしていると本人が語ったら、おそらく多くのファンは信じてしまうくらい素晴らしい選手です。

しかし、母国アルゼンチンには英雄がいました。
ディエゴ・マラドーナです。

約7割が一神教を信じる国において、マラドーナが神と呼ばれていること。
それがどれだけ偉大なことか。

「本日の入場者数は、◯万◯千人と、神一人。」
以前、私がある試合の観戦に行った時のことです。
スタジアムでこのアナウンスを聞いた瞬間、全身に鳥肌が立ったことを今でも思い出します。

そう、つまり、リオネル・メッシは世界一の選手ではあるけれども、歴史上最も偉大な選手ではありませんでした。

「メッシのワールドカップはこれが最後になるだろう。」
そして、年齢を考慮した時、これが最後のチャンスになると言われて迎えたのが2022年のワールドカップでした。

後日、多くの選手が証言するように、リオネル・メッシの戴冠式を誰もが待ち望んでいたように見えました。

次世代のスーパースター率いるフランス代表との決勝戦。
そのボルテージはアルゼンチンを優勝に導くための力となりました。

「歴史と伝統と敬意を前にした時、ファンの見たいものは波乱や番狂わせでは無くなる。」
私は、その瞬間に、サッカーにおける楽しみの基準が変わったのだと予感しました。

それは、人気チームや選手が大会の早い段階で姿を消してしまうことの危険性です。
これからのファンの多くは世界最高のチーム同士が対戦する真剣勝負を見たいと願うのではないだろうか。

つまり、それは、極限まで磨き上げた実力者の戦い、その間にある物語に浸りたいという新たな欲求が生み出されたのだということです。

視聴率はこうした考えや熱気によって上下することが多いです。
これからFIFAは人気の低い準決勝戦や決勝戦の組み合わせが実現してしまう危険が大きくなることを覚悟しなくてはならないでしょう。

そんなことを考えさせられました。


※サッカー・ワールドカップ2022メモリアルフォトブック ※リオネル・メッシ とは ※フットボールクラブ哲学図鑑

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コメント

  1. AYA

    私はスポーツについて全然詳しくはないですが、スポーツがビジネスになることは大事だし、それを選手に還元するのが選手のためになるのではと思います。
    スポーツ選手を目指す人は、一流選手のスター性や高額な報酬への憧れがあると思うので、努力した人たちや才能ある選手がそれを実際に手にできると、より盛り上がるのではないかと思います。それを見て憧れる子供たちがいて、ファンがいて成り立つと思います。

    またスポーツは誰かと共に観戦して盛り上がりを共有するという楽しみがあると思います。
    友人同士で集まってお酒でも飲みながら、声を出したりして応援するのがいいのかなと(ミーハーかもしれません!)
    ガチで好きな方はそんなの関係なく1人でも見られると思いますが!

    同じ感情をリアルタイムで共有できることが広く楽しまれているところだと感じます。

    • 青木コーチ

      いつもコメントありがとうございます!

      「同じ感情をリアルタイムで共有できることが広く楽しまれているところだと感じます。」
      この言葉が印象に残りました。

      「同じセリフ、同じ時、思わず口にするような、ありふれたこの魔法で…」
      スピッツ『ロビンソン』に例えれば、スポーツ観戦は魔法の瞬間と言えるのかもしれませんね。

      スポーツの良いところは、ルールが共有されていれば肌の色を問わず平等であること。
      道具があれば、年齢を問わず誰もが楽しめることです。

      人と人の関係もそうです。
      共通の話題を探すことで、共感するきっかけが生まれます。

      「苦しくなったら私の背中を見て!」
      なでしこジャパンがW杯で優勝した時、キャプテンの澤穂希さんは仲間を鼓舞していました。
      東日本大震災が発生してからまだ3か月ほどの時期に行われた大会です。

      フィールドの中ではその一瞬ごとにドラマが起きています。
      小難しい話は置いといて、時には目の前の人を全力で応援する瞬間も最高です。

      そんなことを考えさせられました。

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