事例分析

【CASE16】プロ野球の観客動員数から考えるスポーツビジネスの未来

今回は、「プロ野球の観客動員数」の観点から、「スポーツビジネスの未来」について考察していきます。


問題提起

日本のプロ野球はコロナ禍の3年前後、観客動員は制限され応援も禁止されて、不自由な思いをしてきました。
そして解禁された今、プロ野球全体の1試合当たりの平均観客動員数は3万610人まで来ています。

過去最多はコロナ直前の2019年で、プロ野球全体で3万928人でしたのであわよくば今年は歴代最多を更新する可能性があります。

ちなみに、セ・リーグは3万3954人、パ・リーグは2万7266人です。
また過去最多の2019年はセ・リーグ3万4655人、パ・リーグで2万7202人。
そう、パ・リーグについては歴代最多を更新しているのです。

夏休み需要を考えれば、両リーグともにさらに増加する見込みがありますので、歴代最多記録の更新はあながち夢でもないと。

それには、コロナ禍による行きたくても行けなかったファンの反動。
Youtubeの宣伝効果や連日報道される大谷翔平効果でプロ野球を知った新たなファンの動員もあったことでしょう。

では、プロ野球及びスポーツビジネスの復調は未来の私たちにどのような変化を与えていくのでしょうか。


背景考察

そもそもプロ野球の収益構造とは何か。
主に8つの収益の柱があります。

1.チケット収入、入場料
2.放映権料
3.グッズ収入
4.ファンクラブ会員費
5.球場内広告収入
6.飲食、売店
7.スポンサー収入
8.選手売買費

ではこうした収益の柱がある中で、一般的に球団が考える最も重要な指標は何か。
それが観客動員数です。

言ってしまえば、球団あるいは選手の人気があるかないかが収益の柱に大きな影響を与えます。
例えば、北海道日本ハムファイターズに新庄剛志さんが劇的な貢献をしたことはあまりにも有名です。

「これからはメジャーでもないです。セ・リーグでもないです。パ・リーグです!日本ハムに入ってやりたいことは、札幌ドームを満員にすること。そしてチームを日本一にすることです。」
03年12月、日本球界復帰にあたって札幌ドームで行った新庄さんの会見は今でも語り草です。
それまでの日ハムは、人気低迷により地元のアンケートでも知られている選手数が2名弱(小笠原道大さん、岩本勉さん)とほとんど認知もされていなければ人気もない球団でした。

年間最多動員数は1988年の245万8500人でしたが、1981年を最後に1度も優勝がなくBクラスが14度とあってはファン離れが進みます。
そして東京から北海道へ本拠地移転最後のシーズンとなった2003年、年間動員数は131万9000人にまで落ち込みました。
最盛期から実に110万人以上の減少です。

そう、苦しむ日ハムはとにかく目玉となるような何かを欲していたのです。
救世主と呼べるような起爆剤となれるような何かが欲しいと。

03年当時の“新庄剛志”と言えば、5年12億の契約を蹴って、1年2200万を選んでメジャーリーグに旅立ち、満を持しての球界復帰でした。
まさに選び放題、好きな球団で好きな選手と野球ができる状態が整っていました。

「たった一人の選手でここまで変わるとは‥」
試合前のシートノックにスパイダーマンで現れて、開幕戦ではダース・ベイダーになる。
オールスターでは史上初のホームスチールを成功させて、本拠地にSHINJOシートを設けて野球少年を無料招待する。

しかし華々しい活躍ばかりがメディアを賑わせる反面、新人時代に7500円で買ったグラブを手入れしながらずっと使い続ける職人肌の一面も持っていました。

そして入団3年目の2006年、新庄さんは宣言通りリーグ優勝と日本一を果たしました。
当然観客動員数も右肩上がりで、その後、斎藤佑樹やダルビッシュ有、大谷翔平というスターを輩出していくのでした。

ちなみに現在は監督として日本ハムに舞い戻り、監督就任による経済効果は約60億円と試算されています。
そしてまだまだチームとしての結果は振るわないものの、空飛ぶバイクやきつねダンスなどプロ野球を総合的なエンタメとして捉えた需要喚起には大きな貢献をされています。

閑話休題。
その観客動員数に最も大きく左右されるのがチケット収入です。
これまでは、公式戦の料金は座席の種類ごとに一律でした。

しかし、近年目立つのは入場料金の「ダイナミックプライシング」です。

例えば、人気カード(サッカーで言えばエル・クラシコなどのダービーマッチ)や土日祝日などは価格を高く設定するなど。

世界に目を向けると、リオネル・メッシがアメリカリーグに移籍した時にチケット価格が高騰したという話があります。
それまでは、MLSのチケット価格は平均で110ドル(約1万6000円)でしたが、メッシがプレーし始めてから、平均で690ドル(約10万円)に値上がりしたと。
ある試合で売れ残っている最も安い席は、785ドル(約11万4000円)だったとか。

ちなみに先日アルゼンチンが大会連覇を達成した南米選手権(コパ・アメリカ)決勝の平均チケット価格は4024ドル(約64万円)でした。
最高値は6万6765ドル(約1065万円)と、あまりに高額で空席も続出していると報じられていました。

試合前には、チケットを買えない大勢の血気盛んなファンがスタジアムに不法侵入。
通気口からも侵入するという手段を問わないやり口に試合開始時間が遅延したと言います。

とはいえ、入場料金を柔軟に設定するのが世界的にも一般的になりつつあります。

すると、ここで大きな問題点が立ちはだかってきます。
それは、テレビ放映やライブストリーミング技術の画質向上によって、現地観戦の価値は損なわれていくのではないかというものです。

現にプロ野球の試合の中でリアルタイムデジタル化技術が行なわれています。
それは実況パワフルプロ野球でおなじみのコナミやデータ分析会社トラックマンが技術提供をして、一球ごとに球速や球種、過去の対戦成績や配球別打率がリアルタイムに表示されると。

リアルタイム投球&打球データ表示でプロの凄さを可視化する。
そう、プロ選手の凄さが瞬間的なデータとして示される時代が来ているのです。
それは、選手が見せる1分1秒の躍動に対して、現地観戦とはまた違った特別な体験を提供していると言えるでしょう。

では、もしも映像観戦の価値が飛躍的に高まった場合、何が起きるのでしょうか。

現地観戦はチケット収入に反映される反面、映像観戦は放映権料として反映されていきます。
もっと言えば、チケット収入はチームの人気に比例しますが、放映権料は対象のスポーツ界全体の人気に比例します。
例えばサッカーは、Jリーグ全体がダ・ゾーンと契約をしているように。

「ウチの球団や選手のファンを増やすためにはどうすれば良いのか?」
現地観戦がメインだった時代は、この発想で各球団が独自の戦略を実行してきました。
しかし、もしも現地観戦よりも映像観戦に価値の比重が置かれるとなれば、各球団が協力をしてスポーツ界全体の底上げに貢献する必要があります。

「プロ野球のファンを増やすために、ウチの球団に出来ることは何か?」
つまりこのように、発想が根底から覆されて行くことになるでしょう。

そしてその時、現地観戦の魅力はどうやって底上げしていくべきなのでしょうか。

「応援の仕方も分からない、ルールも正直分からない。だけど推しの選手がいるから現地観戦に行ってみた。」
一昔前ならばそんなファンは馬鹿にされて、それが嫌なら見るなとまで言われていました。
しかし可処分時間の奪い合いとともに各スポーツ界がファンの奪い合いをしている昨今、一過性のファンをどうやって取り込んでいくかが課題となります。

そして同時に、人気と実力が必ずしも伴わない選手や球団の存在をどう扱うべきかという問題も浮上するでしょう。

例えるならば、モデルとして人気がある人間が口パクメインだけど歌手に転身するようなものです。
集客力や知名度という人気はあるのだけれども、アーティスト一本の実力でやってきた人から見ると疑問が残るような歌手ですね。

しかしながらこうした人材も時には必要とされるでしょう。
なぜなら、音楽のファンだからといって必ずしも歌唱力やダンスなどの実力に興味のあるファンばかりとは限らないからです。
そして、現地観戦と映像観戦問わず、こうした人材の方が華々しく映える可能性もあるからです。

そう考えれば、プロ選手とは結果を残す選手という考え方もあれば、プロとはファンを集められる力であるという考え方も出来るでしょう。
なぜなら実力があっても人気がなければ、球団は成り立たず、選手の年俸にも反映されず、夢の無い儚いスポーツと映ってしまうからです。

「アイドルグループから転身した◯◯です!!実力はまだまだだけれども、ファンと一緒に成長するプロ野球選手を目指しています!応援よろしくお願いします!!」
もしも将来、そんな存在が圧倒的な集客力を披露するような現象が起きた場合、各スポーツ界及びこれまでのファンはその存在を好意的に認めることができるのでしょうか。

そんなことを考えさせられました。


結論

 

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