次世代継承学

【第65話】労働者の保護と企業の経済合理性は両立出来るのか?

「ヤマト運輸がダイレクトメールなどの軽量物の配達を担当する約3万人の個人事業主との契約終了を決定したそうです。経済性だけでは割り切れない思いや、人手不足の中での契約打ち切りの影響、個人事業主としての将来の不安など影響は甚大だと思います。」
正社員を極力採用せずに事業を回している経営者の方とお話をしている際に、労働問題について考えさせられる言葉を頂きました。

「何の説明もなく突然契約を切られてしまったら、流石に生活に支障をきたすし、これまでの努力が踏みにじられたような気持ちになる。」
労働者の保護を優先すべきだという意見があります。
再就職先の話もなく一方的に契約終了はあまりに利己的ではないかと。

それは個人の生活に直接的な影響を及ぼし、社会全体の経済にも悪影響を与える可能性がある。

「企業が経済的に持続可能であるためには、契約の見直しは避けられない選択です。これは企業の存続にとって必要な措置だと思う。」
経済合理性の追求を尊重すべきだという意見があります。
状況の変化に応じて契約を見直すことは、企業が生き残るために必要な合理的な判断だと。

企業の持続可能性を確保するための一環として理解されるべきなのだと。

「個人事業主契約の形式で労働者の権利を縛るのはいかがなものか。」
個人事業主契約の形式は、労働者に対して弱い立場にあり、契約の内容や終了について交渉する力がありません。
また、会社は、個人事業主契約の形式で働く人に対して責任や義務を負わず、契約の見直しや終了を一方的に行うことができます。

つまり、個人事業主契約の形式は、労働者と会社の間に、パワーの不均衡や信頼の欠如が存在するということです。

「契約書にはユニフォームの着用義務規定があり、労働時間と勤務場所が指定されている。それは労働者性の証だ。」
ヤマト運輸の件は、個人事業主でありながら、実際には会社に雇われているような環境でした。
過去、最高裁においてユニフォーム着用義務規定には労働者性が認められています。

「Amazonの配達員(個人事業主/フリーランス)が配達中に怪我をした際、労働基準監督署から労災として認定された。」
個人事業主は本来、労災の対象外ですが、労基署は男性が指揮命令を受けて働く労働者と認定しました。
Amazonが提供するアプリから配達に関する指示が出ていたことが労働者性の認定に大きな影響を与えたと言われています。

「仮にヤマト運輸に落ち度が合ったとしても、労働者は意固地になって執着すべきでない。インフラを止めるようなきっかけを作ってはいけない。」
当然、他人事の薄情な意見と見られるかもしれませんが、配達というインフラが滞ることを懸念する声もあります。
人材流動化が激しい昨今において、職探しはいくらでも出来るだろうと。

「顕在化される意見は、概ね強者やマジョリティの声である。」
メディアの信条とは、弱者とマイノリティの声を拾って、世論の平等性を保つためにあるはずだった。
影響力が重視される社会において、それが機能しなくなって来たことについても同時に考えさせられます。

「ギグエコノミーは21世紀のフリーターだ。同様の問題が起きるのではないか?」
ギグエコノミーとは、インターネットを通じて単発的な仕事を請け負う働き方や、それによって成り立つ経済のことを指します。
例えば、ウーバーイーツやクラウドワークスなどのサービスがその代表例です。

労働者にとってのギグエコノミーとは、自分の好きな時間や場所で働ける自由度や、自分のスキルや趣味を活かせる多様性にあります。
企業にとっては、必要な時に必要な人材を柔軟に確保できる効率性や、固定費を削減できるコスト削減が挙げられます。

しかし、ギグエコノミーにはデメリットや課題も多く存在します。
労働者にとっては、安定した収入や福利厚生が得られない不安定さや、仕事の量や質によって収入が変動する不平等さが挙げられます。
企業にとっては、契約の見直しや終了に伴う法的なリスクや、労働者のモチベーションや品質の管理が難しいという課題が挙げられます。

ギグエコノミーの台頭は、労働市場に新たな柔軟性をもたらしました。
しかし同時に労働者の保護に関する新たな問題も生じさせています。

UberやAirbnbなどのプラットフォームを利用する個人事業主の増加。
それに伴い、労働法や社会保障制度の見直しを求める声も挙がっています。

労働者の生活の安定と企業の経済合理性。
相反する利益が衝突しています。

「24時間、戦えますか?」
戦後の経済成長期には、産業や技術やサービスが飛躍的に発展しました。
しかし、戦後の経済成長期は、労働者にとっては、過労やストレスや健康被害という問題をもたらしました。

若い世代は、老害と言って過去の栄光に浸る話を聞き流します。
しかし、その話にはすべて共通点があります。

それは、強者と弱者の不平等と不公平です。

私も歴戦の猛者たちの苦労話やトンデモナイ話を聞くのが辛かった時期があります。
しかし、ほとんどの話に共通点と社会との関連性があることに気付いた時、途端に面白さが見えて来ました。

高度成長期において、労働者は、労働組合や集団交渉などの手段で、労働者の権利や待遇の改善を求めました。
一方で会社は、労働者の要求に応えるか、あるいは妥協するか、それとも押し切るかという選択を迫られました。

大きな声では言えませんが、ブラック企業のブラックな話は基を辿れば高度成長期にあるものです。
つまり、戦後の経済成長期は、労働者の保護と会社の柔軟性という問題を再定義した時代と言えるでしょう。

そして今、ギグエコノミーという新たな言葉が定義されて、初めは上昇気流に乗りますが危機的な何かが起きて構図が変わっていく。
時代は繰り返します。

「もし、お金の重みを減らせるような施策があったとしたならば。」
資本家、企業、労働者。
この三竦みの構図に、どうやって平等と公平性をもたらすべきなのか。

それが、経済という枠組みを越えた宗教という概念なのかもしれません。
過去にプロテスタントの倫理がそうさせていたように。

それとも、もしかしてお金という概念が限界なのかもしれません。
では、もしもお金以外の何かを用いた新たな経済があるとすれば代替物は何になるのでしょうか。

そのためには、人類特有の共通定義を見出す必要があるのではないか。
そんなことを考えさせられました。


※クロネコヤマト「個を生かす」仕事論 ※ギグエコノミーについてより深く知りたい ※問題社員の正しい辞めさせ方

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