次世代継承学

【第48話】失われた街の記憶は取り戻せない。

「都市の経済発展を望めば、シビックプライドが失われる。人の心を考えずに成長を優先させていいのだろうか。」
まちづくり学を専攻される方とお話した際に、人と街の関係性について考えさせられる言葉を頂きました。

「都市の再開発により、古い建物や施設が新しくなり、治安の向上や観光資源としての価値が上がる。」
都市の活性化や経済的な発展をもたらすという意見があります。

「ジェントリフィケーションにより、低所得者が住めなくなり、地域のコミュニティが壊れてしまう。」
一方で、低所得者の排除や地域の歴史・文化の喪失といった問題も引き起こしています。

経済的な発展や観光業の振興を優先するべきか。
それとも、地域住民の生活の質や文化の維持を優先するべきか。
あなたはどう思いますか?

メキシコの田舎町。海岸に小さなボートが停泊していた。
メキシコ人の漁師が小さな網に魚をとってきた。その魚はなんとも生きがいい。
それを見たアメリカ人旅行者は、
「すばらしい魚だね。どれくらいの時間、漁をしていたの」
と尋ねた。 すると漁師は
「そんなに長い時間じゃないよ」
と答えた。旅行者が
「もっと漁をしていたら、もっと魚が獲れたんだろうね。おしいなあ」
と言うと、漁師は、自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だと言った。
「それじゃあ、あまった時間でいったい何をするの」
と旅行者が聞くと、漁師は、
「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊んで、
女房とシエスタして。夜になったら友達と一杯やって、
ギターを弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」
すると旅行者はまじめな顔で漁師に向かってこう言った。
「ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した人間として、
きみにアドバイスしよう。いいかい、きみは毎日、もっと長い時間、漁をするべきだ。
それであまった魚は売る。お金が貯まったら大きな漁船を買う。
そうすると漁獲高は上がり、儲けも増える。
その儲けで漁船を2隻、3隻と増やしていくんだ。
やがて大漁船団ができるまでね。そうしたら仲介人に魚を売るのはやめだ。
自前の水産品加工工場を建てて、そこに魚を入れる。
その頃にはきみはこのちっぽけな村を出てメキシコシティに引っ越し、
ロサンゼルス、ニューヨークへと進出していくだろう。
きみはマンハッタンのオフィスビルから企業の指揮をとるんだ」
漁師は尋ねた。
「そうなるまでにどれくらいかかるのかね」
「二〇年、いやおそらく二五年でそこまでいくね」
「それからどうなるの」
「それから? そのときは本当にすごいことになるよ」
と旅行者はにんまりと笑い、
「今度は株を売却して、きみは億万長者になるのさ」
「それで?」
「そうしたら引退して、海岸近くの小さな村に住んで、
日が高くなるまでゆっくり寝て、 日中は釣りをしたり、子どもと遊んだり、
奥さんとシエスタして過ごして、夜になったら友達と一杯やって、
ギターを弾いて、歌をうたって過ごすんだ。どうだい。すばらしいだろう」

この有名なコピペ。
本来ならば、豊かさとは何か、清貧とは何かを考えさせられるものです。

しかし、これは、ジェントリフィケーションを捉える物語と見ることも出来るでしょう。

もし漁師が旅行者の教えに沿って実行したらどうなるのかという捉え方です。
工業化されておらず、地産地消で自活する術しかないために、おそらく地価も高騰していないこのちっぽけな村。

村人が漁獲量拡大のために、旅行者の助言通り工業化に踏み切ったのならばどうなるのか。

「この村をより豊かで映えある場所へ、皆さんと共に成功を治めましょう!」
村が街になるために、まずは村に時間と楽という概念が埋め込まれます。
そして即効性のある便利な生活で一時的に村人は生活が良くなったと錯覚されます。

次に、新規移住者が呼び込まれて、資本のサイクルが回り始めます。
そして経済を好循環させるために、漁獲の許可制や漁獲海域の規定など、外で正しいとされているルールが持ち込まれます。

「元々この村はおれたちの場所だぞ?勝手に外から来て、都合のいいことばかり言うな!」
ルールによって万人が平等に束ねられるわけじゃあ、ありません。

資本家はここで村人を3回までは説得しようと条件を提示します。
ここで村人が折り合えば、文化や誇りは踏みにじられるがまだ穏便に納まります。

しかしここで折り合えなければ何が起きるのか。

知らぬ間に地価と物価は高騰して、日々の生活に必要な賃金を得ることが出来ず、生活困窮者に成り果てます。
シビックプライドは遺産として数十年は語り継がれますが、その後は忘れられていきます。

そして、街になるために動かない村人達は追い出されていきます。

「障害者による障害者のための活動によって障害者から追い出されていく。」
例えば、障害者アート或いはパラアートと呼ばれる分野があります。
その目的は、障害者の自己表現や収益を得る機会を提供することです。
また、障害者の自立と社会参加意欲を高め、国民の障害者への理解を促進することにあります。

再開発前は障害者や低所得者が住んでいた場合。
パラアートによるアートタウン計画は再開発を促進させます。

そして地価が上昇し、その街に住む障害者や低所得者が住めなくなっていく。

「再開発は国際競争力を高めるためにやるべきだ!」
例えば、香港・湾仔区にある利東街は、かつて印刷業者が立ち並んでいた古い商店街でした。
しかし、2000年代に入ってから、この地区は再開発の対象となりました。

政府やデベロッパーは、この地区を高級マンションやショッピング街として再開発することで、都市の国際競争力を高めると主張しました。
これに反対する地元住民や活動家は、この地区の歴史や文化を守るために抵抗しました。

しかし最終的に、多くの住民や店舗が立ち退きを余儀なくされ、利東街はジェントリフィケーションの典型例となりました。

これにより新しい雇用機会や消費者層が生まれたことで、一部の住民や店舗は大きな恩恵を受けましたが、これで本当に良かったのでしょうか。

都市の経済的な発展と地域住民の権利を同時に重視する。
それが理想であることは分かりつつも、そう簡単に行くものではありません。
あなたなら、この二律背反をどう克服していきますか?

例えば、ベルリンのクロイツベルク地区では、都市の再開発と地域住民の権利の共存を目指した取り組みをしています。
それは、低所得者向けの住宅確保や地域の文化維持に力を入れるということです。

私たちは、ついつい個人の単位で良し悪しを判断してしまいます。
しかし、社会という単位も忘れてはいけません。

地域に関わるすべての関係性をどう編み直していくべきか。
あなたは、自分の住む街がどうなって欲しいと願いますか?


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