次世代継承学

【第119話】高炉製鉄 vs 電炉製鉄

「日本の鉄鋼業界が直面するカーボンニュートラルへの挑戦は難題です。高炉から電炉へのシフトにどれだけ政府が手を差し伸べてくれるのか・・・。」

廃品回収及び資源貿易に従事されている方とお話をした際に、製鉄技術について考えさせられました。

「蓄積されたノウハウを捨てるつもりか?」

  • 意見1: 高品質な鋼材の製造が日本のモノ作りを支えてきた。
  • 意見2: 大量生産に適している。
  • 意見3: 長年の技術蓄積と経験を捨ててはいけない。

■「世界をリードする新たな技術革新を目指すべき。」

  • 意見1: CO2排出量が少ないため世論を味方に出来る。
  • 意見2: 鉄スクラップを自国の資源に転用することが可能になる。
  • 意見3: カーボンニュートラル実現に向けた重要な手段として世界をリード出来る。

■高炉製鉄法

  1. 目的: 高品質な鋼材の大量生産を通じて、建設や自動車産業などの需要を満たす。
  2. 建前: 長年にわたる技術蓄積と経験に基づき、信頼性の高い鋼材を提供する。
  3. 本音: 現存する設備投資の価値を最大化し、既存の生産体制を維持したい。
  4. 信条: 伝統的な製鉄方法の継続を通じて、産業としての安定性を確保する。

■電炉製鉄法

  1. 目的: 環境負荷の低減と資源の有効活用を実現し、カーボンニュートラル社会への貢献。
  2. 建前: 鉄スクラップのリサイクルを通じて、持続可能な製鉄プロセスを推進する。
  3. 本音: 電力コストや市場の変動性に対する懸念を抱えつつも、環境規制への対応と新たな市場ニーズに応えたい。
  4. 信条: 環境と調和する製鉄方法の採用により、将来世代への責任を果たす。

■理想と現実の間

日本の製鉄技術は世界トップクラスと言われています。
では、その技術は主にどの業界で重宝されているのでしょうか。

それが自動車業界です。
例えば現在EV(電気自動車)が盛り上がりを見せていますが、そもそもEVは下記の種類があります。

①BEV:(バッテリー式)電気自動車
②HEV:ハイブリッド自動車
③PHEV:プラグインハイブリッド自動車
④FCEV:燃料電池自動車

そのほとんどにNO(無方向性電磁鋼板)を材料とした車載モーターを搭載しています。
というより、日本の高炉製鉄トップ3(日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所)が作った鋼材が無ければ自動部品の大部分が作れません。

「世界一薄くて、軽くて、丈夫な自動車鋼板を有する自動車。」
トヨタがなぜ世界No1 の自動車メーカーになれたのか。
つまり、その背景にはサプライヤーとして素晴らしい製鉄技術を持つ企業が支えになっていたことは大きな要因と言えるでしょう。

中でも、高炉製鉄の技術で日本のトップメーカーが日本製鐵です。

しかし近年、日本製鐵がトヨタ相手に裁判を起こすという事件がありました。
内容は、下記となります。

  • 日本製鐵が持つNO(無方向性電磁銅板)の特許を中国企業(宝山製鉄)が侵害。
  • 不法に製造したNOをトヨタに販売。
  • トヨタはこれを材料としたモーターを搭載した自動車を国内で製造/販売した。

遡れば2012年にも電磁銅板技術が流出する事件がありました。
その時は、日本製鉄が持つ製造技術を元社員が持ち出し、韓国企業(POSCO)に流出。
そして後に中国企業(宝山製鉄)に渡っていたという顛末で、産業スパイ行為が問題でした。

しかし今回は、特許侵害という点が問題です。
特許とは国別に取得する必要があり、日本で取得していても中国でしていなければ効力がありません。
そのため、もしスパイが運んでバレなければ中国国内で使用しても良いが、日本に輸出してはダメだという理屈です。

今回は、宝山製鉄がなぜか日本製鐵の特許技術を持っており、そして、日本のトヨタに販売しました。
そしてトヨタは特許侵害に当たるNO(無方向性電磁銅板)を輸入して自動車を販売していたと。
だから日本製鐵はトヨタ(宝山製鉄と三井物産も)を提訴しました。

ちなみに、2021年10月14日に情報が挙がり、2023年11月2日にトヨタと三井物産については日本製鐵が請求を放棄したため今後この件で争われることはなくなりました。
※請求の取り下げの場合はまた訴訟出来るけど、放棄の場合は二度と出来ないため
※ちなみに宝山製鉄とはまだまだやり合うつもりです

日本製鐵が裁判で賠償額を思うように取れないことが判明したので、請求放棄は日本製鐵の負けという意見もあります。
一方で、その後トヨタは日本製鐵の値上げ交渉にも応じており、健全な生産関係および日本の内需が回る体制に移行していることからサプライヤーとしての善き関係性を築いたという意見もあります。

この件で分かること。
それは、日本の高炉製鉄技術はすでに国外に流出しており遅かれ早かれ情報の並列化が起きるということです。

つまり、日本の製鉄アドバンテージはあるようで実はほとんどなくなってきている。

そこで電炉というリサイクルも出来て電力効率も良い製鉄技術で、高炉と同じクオリティの製鉄技術を目指すべきなのではないかと。
しかも余っている鉄スクラップを活用出来るので、見方によっては資源大国にもなれる。
それが、今後日本が中長期的に展望している未来です。

とはいえ技術流出を抑制する仕組みが無い限りまた歴史は繰り返されていきます。
愛国心という言葉がこの業界には必要なのではないかと思わされます。

官民連携でこの業界はどのように進化を遂げていくのか、そこがこのテーマの面白いところだなと感じさせられました。

■乖離を埋めるための事例

  1. カーボンキャプチャー技術の導入: 高炉製鉄法におけるCO2排出量の削減。 出典: Nippon Steel Integrated Report
  2. 再生可能エネルギーの利用拡大: 電炉製鉄法における電力供給のグリーン化。 出典: Steel Dynamics EAF vs. Blast Furnace
  3. 技術革新による生産効率の向上: 両製鉄法におけるエネルギー効率と生産性の改善。 出典: Eurofer
  4. 鉄スクラップリサイクルの促進: 電炉製鉄法による持続可能な資源利用の推進。 出典: American Iron and Steel Institute
  5. 国際協力による技術共有: 世界各国の鉄鋼業界との技術交流と協力。 出典: General Kinematics

■未来を担うべき主体

政府、産業界、研究機関、国際組織が連携して、技術革新、政策立案、市場需要の創出において重要な役割を切り盛りしていくでしょう。

■乖離を埋めるための具体的な手段

  1. 政策と規制による支援: 政府による補助金、税制優遇、環境規制の整備。
  2. 産学連携による研究開発: 新技術の開発と実用化に向けた産学連携の強化。
  3. 国際協力の促進: グローバルな知見と技術の共有、国際的な規格の統一。

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