次世代継承学

【第89話】成長とは、何が成長することなのだろうか。

「マトリックスや攻殻機動隊2045は、人間の意識を仮想世界に送り、幸福な虚構世界を提供しています。しかしその世界に成長という概念はあるのでしょうか。」
教育哲学を専攻されている方とお話をした際に、現実と虚構における成長について考えさせられる言葉を頂きました。

「夢は現実の中で戦ってこそ意味がある。他人の夢に自分を投影しているだけでは死んだも同然だ。」
現実世界の問題に直面し、それを乗り越えることが重要だという意見があります。
現実世界での経験が人間を形成し、個人のアイデンティティを確立するのだと。

「現実の世界は限界があるが、想像の世界は無限である。」
一方、虚構が提供する無限の可能性と自由を通じて、人間の想像力と創造性が最大限に発揮されるという意見があります。
現実では得られない体験からの学びこそが、虚構の価値なのだと。

「文学は現実を模倣する。」
現実は、虚構に対して素材やインスピレーションを提供してくれます。
そして虚構は、現実の解釈や変革を促進させます。
つまり、それは、現実と虚構は相互に影響し合う関係にあるということです。

「困難を克服することは、自分の能力や価値を高めることに繋がる。」
現実を受容する人々は、現実世界における自分の立場や役割、責任や義務、目標や夢などを明確に持っています。
彼らは自分の行動や選択が、自分だけでなく他者や社会にも影響を与えることを理解し、その結果に責任を持とうとします。

そして、現実世界での自分の存在意義と社会的意義を確かめることで、自己肯定感や満足感を得ることができると考えるようになります。

「ハンデを背負う人からすれば、戦いたくても戦えない状態にある。」
しかし、現実で戦える人ばかりではありません。
自分の立場や役割、責任や義務、目標や夢などが曖昧にならざるを得ない方々もいます。

不幸自慢。
そんな言葉があるように、私たちは、困難や苦痛、不公平や不幸を抱えて生きています。
戦うことは、決して簡単なことではありません。

「現実に戻った途端に不幸が待ち受けている者もいる。」
では、娯楽とは何か。
それは、困難や苦痛、不公平や不幸などが存在することを否定し、それらを避けることだという解釈があります。
次いで言えば、忘れることが出来るから人は生きることが出来るのだと。

虚構の価値とは、娯楽を超越することにあるのかもしれません。
つまり、自分の思考する範囲外から得られるものには、自分を変容させる可能性があるということです。

「知らない観点の話は、いつも好奇心をくすぐってくれる。その反面、知っている観点からは、答え合わせとして確信が得られる。」
例えば、なぜ講演会や講座に参加するのでしょうか。
それは、自分以外の誰かの目線から語られた内容を聞くことに価値があるからです。

その価値とは、それまで見えていた範囲と射程を超える力です。
言い換えればそれは、虚構には、自分の意識が及ぶ範囲と射程を広げる可能性があるということです。

それが、やがて創造力に変わっていくのだと思います。

「僕はここにいてもいいのだろうか?」
しかし、虚構が理想なのだとすれば。
それは、自分の思うがままに、理想とする役割と物語を体験するということです。

つまり、自分の存在意義や社会的意義に疑問を持つことさえも忘れていきます。

自分の行動や選択が、他者や社会にも影響を与えているという実感が得られないとはどういうことか。
それは、起きた結果に責任を持つという気概が失われるということです。

同時に、自分の役割や物語を追い求める理由も無くなります。
ただひたすらに、快楽の循環を得ることに成長があるのかと言えば、それは考えにくいでしょう。

マジックリアリズムという文学表現があります。
それは、現実世界の出来事が超自然的な要素と組み合わされ、より深い意味や理解を生み出すジャンルです。
例えば、現実世界に魔法使いが登場する、或いは死者や恐竜が甦って首都に大きな影響を与えるなど、SF作品のほとんどが当てはまります。

ウォシャウスキー兄弟『マトリックス』は、人間が現実と虚構の間で選択を迫られるというテーマを探求した作品です。

作品における現実世界は、人間を支配する機械によって作られた仮想現実でした。
真の現実は、人間が機械と戦う荒廃した世界であると。

神山健治『攻殻機動隊 SAC_2045』には、ダブルシンクという概念が登場します。
それは、一人ひとりに仮想世界を提供するというものです。

「瞳を閉じれば、仮想世界が広がっている。」
まるでヱヴァの「人類補完計画」やNARUTOの「無限月読」のようですが、その違いは、現実と仮想世界が両立している点にあります。

「記憶は生命活動において重要な要素ではあるけど、ゴースト(魂)がなければ、ただのデータだからね。」
時がループしているのか、それとも時は進んでいるのかに関わらず、虚構世界における成長とは、何を持ってして成長と言えるのでしょうか。

マトリックスや攻殻機動隊など、AI・人工知能系のSFにおける成長は、データの蓄積です。
しかし私は、記憶や年を重ねることが現実を生きる人間にとって成長になるとは言い切れないと考えています。

つまり、記憶やデータが増えることが成長ではないということです。

「人間は、イデアの世界からの記憶をもとに、現実世界での知識や美や善などを追求するべきだ。」
古代ギリシャの哲学者プラトンは、現実世界は不完全で変化するものだと言いました。
真の現実は、完全で不変なイデア(理想形)の世界なのだと。

もしかしたら、プラトンにとっての成長とは、イデア界の理想を現実に取り入れることなのかもしれません。

18世紀ヨーロッパに興ったロマン主義派の文学は、現実世界における理性や規律、社会などに対する反発や批判を表現しました。
そして、ロマン主義に傾倒したロマンチストな作家たちは、虚構の世界における感情や自然、個人などに対する賛美や憧れを表現しました。

もしかしたら、ロマン派にとっての成長とは、豊かな想像力をロマンチックに具現化していくことなのかもしれません。

「何が変われば、成長なのだろうか。」
注意されて逆ギレする大人が増えています。
ある人は、少年時代の経験不足から来るのだと言います。
またある人は、人間性がなっていないと言います。

肉体的な進化、精神的な進化、霊性的な進化。
成長とは、何が進化すれば成長と言えるのでしょうか。


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コメント

  1. AYA

    成長とは個人的な感覚であり、自分が満足できるものの質が向上することかと思います。
    マズローの欲求階層説に似てますが、もっと層があって、その内容は個人の感覚で違うのかなと思いました。

    • 青木コーチ

      いつもコメントありがとうございます!

      「成長とは個人的な感覚であり、自分が満足できるものの質が向上すること。」
      この言葉が印象に残りました。

      人間は満足したら終わりだと、現状維持は衰退だと。
      そういう意見もあります。

      しかしそれは本当にそうなのでしょうか。
      だとすれば、人はいつ幸せを噛みしめれば良いのでしょうか。

      失った時に初めて幸せだったことに気付く。
      その前に、いつどこで自分がなぜ幸せだと思えたのか。

      「どうしてそう思えたのか?」
      これに回答出来るように、心を整えることも大切なのではないかなと。

      そんなことを考えさせられました。

  2. 星屑のかけら

    こんにちは。当ブログも考えさせられる楽しいブログでした。いつも執筆ありがとうございます。

    さて、成長とはなにをもって成長となるのか。
    答えの一つは価値観/思考にあると思います。

    全く同じ事象に対してどのような反応をするのか。
    コンビニの大好きな商品が売り切れていたとします。
     ある人は、なぜ売り切れているのか。在庫不十分だと怒るでしょう。
     ある人は、売り切れたものは仕方ないな。別日に買おう。と割り切るでしょう。
     ある人は、最近CMされだしたもんな。CM効果は凄いな。と納得するでしょう。
     ある人は、何が人気に火をつけたのだろう。と考えるでしょう。
    同じ大好きな商品が売り切れていた。という事象に対して、異なる反応が出ることが容易に考えられます。

    年齢を重ねるとともに様々な経験を積んだとしても、ある出来事に対する反応が一切変わらなかったとしたら。
    (青木コーチのお言葉を借りるのならば、記憶やデータが増えている状態)
    その方は成長していると言えるのでしょうか。

    機械でさえ、成長=アップデート/改修されたときには、反応が同じであっても計算式などの経緯が変わったり、導かれる反応結果が異なるかと思います。

    記憶やデータが増えることが成長ではないのでしょうが、なんでもかんでも数値化する風潮のある現在、成長とはなにによって測られ、見出されるべきなのでしょうね。
    その定義によっては、ヒトの進む未来の一端が見える気がします。

    • 青木コーチ

      いつもコメントありがとうございます!

      「年齢を重ねるとともに様々な経験を積んだとしても、ある出来事に対する反応が一切変わらなかったとしたら。」
      この言葉が印象に残りました。

      経験値を養うとは、現象に対して適切な捉え方が出来るようになることだという意見があります。
      では、ここで言う適切とは何か。

      それが、自分の目標や目的に繋がり付加価値を生み出すような解釈なのだと。

      しかし、もしそうだとするならば、人間は願望に基づいて解釈をしているのではないか。
      つまり、人間が捉える範囲とは、どこまでいっても自分を越えたところにはない。
      そのような結論が思い浮かびます。

      思い込みや先入観を取り除いて捉えることが出来る強さ。
      それが経験値なのだとすれば、そこに一呼吸、間を生み出せるなと思います。

      そんなことを考えさせられました。

      • 星屑のかけら

        いつも返信いただきありがとうございます。

        頂いた文章を拝読していた際にふと疑問がでてきました。
        経験値を養っているほど、先入観が強まるのではないか。というものです。

        ”経験値を養うとは、現象に対して適切な捉え方が出来るようになること”とは、より効率良く現象に対処できることであり、それは過去の類似事例(経験値)と照らし合わせるからこそだと考えました。
        では、経験値があるほど、過去の類似事例が蓄積されており、過去の類似事例に沿った選択肢をとるべきだと、選択肢が凝固まっているのではないかとも連想できます。

        一方、”間”を生み出すのは、確かに手柄に焦る若手よりも、経験値のあるベテランのほうが多いとも感じています。
        が、それは経験値によって導かれるのではなく、経験値とそれに付随する思考が大きな影響を与えているのではないでしょうか。

        道具は使いようだ。という言葉がありますが、それと同様なことを考えてしまいました。

        • 青木コーチ

          返信頂きありがとうございます!

          「経験値を養っているほど、先入観が強まるのではないか。」
          この言葉が印象に残りました。

          仰るとおりで、経験値が先入観や思い込みを生み出すと。
          過去の成功体験に引きずられて時代に取り残されていくのだと。

          その捉え方もあります。
          しかし、経験値にはもう一つ利点があります。

          それは、良い意味で「予測」が出来ることです。
          それが、判断における間を生み出し、一呼吸の間を作れるからより深い洞察が出来るのだと。

          しかしながら、それは当人が持つ思考や思想の域を出ることがないため、それ以上を目指すならば第三者による引き出しが必須です。
          つまり、経験値を備えていてかつ関係性に左右されない第三者が隣人にいると、経験値の交流が可能になります。

          だから経営者はそれを求めて「友」を探す活動をするのかなと。
          そんなことを考えさせられました。

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