事例分析

【CASE11】ドローンビジネスからみた考察

今回は、国内市場の拡大が見込まれている「ドローンビジネス」について考察していきます。


問題提起

2023年度における日本国内のドローンビジネスの市場規模は、3854億円と推測されています。
2022年度と比較してみると、3111億円から743億円増加と、前年度比23.9%増の成長です。

2024年度には前年度比21.5%増の4684億円に拡大し、2028年度には9054億円に達すると見込まれます。
これは年間平均成長率(2023年度~2028年度)に換算すると、年18.6%増加することになります。

これからこの業界で、一体何が起きようとしているのでしょうか。

そして、この変化は未来の私たちにどのような変化を与えようとしているのでしょうか。


背景考察

ドローンを使ったソリューションといえば、あなたは何を思いつくでしょうか。
連日ニュースを騒がせているのは、ドローンが戦争の兵器として有効な戦術として認知されるようになったというものです。

従来の戦場における情報収集の手段は、人間の目による偵察、つまり目視が最も狂いが無いと言われていました。
そして偵察によって戦況を見極めた後に、各種の攻撃手段を用いてアプローチして行くと。
それが当たり前でした。

しかし現代では、その当たり前がドローンによって変わりました。
ドローンが偵察と攻撃の二段構えを簡略化して、ワンストップでアプローチ出来るようになりました。
つまり、ドローンが索敵で敵部隊の経路や状態を補足して、状況に合わせて爆撃までセットで完了させるというものです。

しかも蜂を銃で撃ち落とすことが困難なように、ドローンを迎撃しようにも小型で速度を有する対象を落とすのは至難の業と言われています。
こうした話は遠い国の出来事ではなく、実際に日本でも身近になりつつあり、中国のドローンが日本の海自護衛艦を撮影していたという例も発表されています。

では、もし将来的にただの偵察から突然武力攻撃に切り替わったらどうなってしまうのか。
防御の側面でどうドローンに対抗していくのかについては、電波遮断等の対策が検討されていますが、まだまだ発展の余地はあると考えられます。

「中国製ドローンにはスパイウェアが仕込まれていて、ある信号を基に一斉にコントロールを制御することが出来るのではないか?」
世界のドローン市場に目を向けると、中国製のドローンは世界シェアの7割から8割を占めており、ドローン業界で圧倒的なシェアと知名度を誇っていることが見えてきます。
そんなことから、中国の攻撃的な国政も相まってまことしやかに脅威論が囁かれるようにもなっています。

「社会の課題を解決するためにドローンは使われるべきなのに何で‥」
我々からすれば、ドローンを社会課題の解決に使いたいと考えるところですが、普及率や価格帯、売上という経済を考えると一筋縄ではいかないのが現代社会だということです。

見方を変えれば、今でこそよりよい社会の実現のためにインターネットが使われていますが、元々は軍事兵器の1つとして開発されて来ました。
山岳救助隊で使われるような赤外線暗視ゴーグルも、同様に夜戦を想定して開発運用されてきました。
そう考えれば、テクノロジーの進化は戦争とともに発展してきたという側面もあることは忘れてはいけない視点です。

では、ドローンは未来の社会でどのように実装されていくのでしょうか。
何かを社会に実装しようとすれば次の3点を必ず克服する必要があります。
それは、効果性、安全性、収益性です。

例えばドローンによる配達が社会に実装されようとした場合に、既存の配達と新たな配達で何が変わり、誰が喜ぶのでしょうか。
またそのドローン便によってどのようなリスクが想定されて、それはどう解消していく見通しなのか。
そして、誰が誰に投資をして、中長期的に持続可能な運用体制は実現可能なのだろうか。

その3点を事前に考えておかないと、素晴らしく理想的な未来である一方で、現実的に関わる人々が本当に豊かさを享受出来るのかが見えなくなります。
その結果としてよくある失敗パターンは、ミイラ取りがミイラになる現象です。
言い換えれば、システムや仕組みを運用した当初は恩恵が享受出来たものの、いつの間にかシステムや仕組みを維持するために四苦八苦してしまうという現象に陥ります。

過去を振り返れば、東京オリンピックを機に、ドローンは町中に配備されて我々の生活を一変すると言われ続けてきました。
2024年問題が物流業界に大きな影響を与えたとしても、ドローンが起死回生の一手になるのではないかと。

例えばAmazonがドローン倉庫を作り、やがてすべての物流配送にドローンが組み込まれて人手不足を解消した新たなソリューションになっていくのだと。
ドローンによって各業界が劇的に進化して行くのだと言われ続けてきました。
しかしながら、活用されつつある業界もあるのですが、我々が夢見た未来を実現するためにはまだまだ困難が待ち構えているのが実情です。

例を挙げると、物流分野では、全国で実証実験をはじめとしたドローン物流の取り組みが数多く行われています。
そして「無人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル3)」に関するルール改正(レベル3.5飛行制度の新設)が行われました。
これによって2025年度以降に市場が本格的に立ち上がっていくのではないかと予想されています。

しかしながら、夢で見たような壮大な光景が現実となるのはまだまだ先になると言われています。
ではなぜそう言われているのでしょうか。

例えば、少子高齢化の社会において、移動困難者が増えていくでしょう。
すると今後は「行くから来る」や「来るから、迎えに行く」がトレンドになっていくと想像されます。

となれば、各ご家庭に配送するのか、それともコミュニティスペースに配送するのかが焦点になるでしょう。
なぜならその境目はドローンが配達可能な10キロ前後によって判断されますので、往復で考えれば5キロ圏内と想定されるからです。

となると空輸で運べることは、道路が整備されていない状況においては効果的ですが、道路がある地域においてはトラック便やバイク便に比べてどうメリットを出すのかが課題です。
ここであなたにも考えて頂きたいことがあります。

それは、「届けてもらう方法にこだわる理由はありますか?」というものです。

自宅周辺のコンビニ事情で例えてみましょう。
コンビニのオーナーが変わろうが、直営だろうがFCだろうが、それであなたに不都合はありますか?
或いは、それがセブンイレブンだろうがローソンだろうが、そこに「ひとまず品揃え豊富な通いやすい店があれば良い」というのが本音なのではないでしょうか。

「何でも良いです。安く早く安全に届きさえすれば。」
つまり、そう考えるのが消費者の欲求なのではないでしょうか。

さらに言えば、空の道は決して自由で安全な道ではありません。
ドローンは高度150m以下で飛行することと義務付けられているのですが、そもそも地上から300mは土地の所有者の許可が必要となります。
そう考えると、空の道は決して縦横無尽に移動できる自由なフィールドでは無いという現実が見えてきます。

そして、この惑星に重力というものが存在する限り、常に落下リスクが存在します。
それこそ、ある日突然空からの落下物で絶命するという新たな不慮の事故が起きる可能性があるということです。

その場合、誰が責任を取り、本人及び遺族はそれで納得出来るのでしょうか?
「ある日、少女が空から降ってきた。」では済まないでしょう。

では、ドローン配送はバイク便やトラック便と比較して、運賃が劇的に安くなるのでしょうか。
ガソリン代と電気代という比較でしたら安くなる見込みがあります。

しかし、1回の配達で可能な積載量とお届け回数で考えてみるとどうでしょうか。
明らかに1配達に掛かるコストパフォーマンスでドローンの分の悪さが目立つとは考えられませんか。

だとすると、道路が無い離島は自治体が配達料金の費用負担をすることで成立するでしょう。
しかし、その他は富裕層向けのプライベート配達になっていく可能性も否定できません。

いや、そもそも空の道を作るためにどれだけの時間と労力が必要なのでしょうか。
現在、株式会社トルビズオンがスカイドメインを駆使した空のシェアリングを展開しており、紛れもない空の道の業界最大手です。
その担当者によれば、空の道は地主に1件ずつ許可を頂くという地道な作業により実現されるものだと言います。

「空をドローンが行き交いして我々の生活を豊かにしてくれるはずだ。」
つまり、その未来を実現するにはまだまだ乗り越えなければならないハードルがあると言うのが現状です。

とはいえ賑やかな業界で言えば、エンターテイメントの用途はかなり活用が進んでいます。
少し前にプロジェクトマッピングが話題になりましたが、それを昇華するように、数百から数千のドローンを群制御して、機体のライトで夜空に文字や図形、アニメーションを描く「ドローンショー」が発明されました。
今では全国各地で行われており、今後はかつてバルーン広告が流行ったように、広告宣伝手法の1つとしても注目を集めていくと考えられるでしょう。

また、点検や散布業務においてもドローンの社会実装は着実に進んでいます。

例えば点検用途で言えば、人が立ち入ることや目視することが制限される状況でドローンは大活躍しています。
具体的には、オフィスビルや商業施設の天井裏や下水道、ボイラーやダクトの内部、狭小空間、さらには水上や水中といったフィールド。
或いは、海洋構造物やダム、上下水道、農業水利施設の管路といった設備を対象にした点検において、ドローンの有効性が認知されてきています。

農業分野ではドローンによる農薬散布が定着しつつあり、時間と手間を掛けなければ良い作物が育たないという従来の概念を覆しつつあります。
ドローンの産業利用が進むにつれて、「無人航空機操縦者技能証明制度」という国家資格が整備されたことで、スクール事業も活発化して来ています。

そしてバッテリー等の消耗品の販売、定期的なメンテナンスサービス、業務環境に即した保険のバリエーションの増加と。
ドローンが市場に普及すればするほど、周辺のサービス市場も拡大しています。

そして私が最も期待しているのは、防災に関するドローン活用です。
減災士という民間資格がにわかに注目を集めています。
それは、すでに株式会社トルビズオンとも連携を取りながら、非常時の捜索や輸送や物資補給に焦点を当てた、災害を抑制するプロジェクトです。

そう考えると、消費者や市民にドローンが大きく普及するシナリオがあるとすれば、それは物流ではありません。

激甚災害における減災を中心とした、生命やインフラを守る取り組みの一環としてドローンが普及していくと思われます。
その未来では、ドローン減災隊という言葉が普及して、ドローンドライバーにも正当な対価が支払われて、スマートに災害を抑制していくでしょう。


結論

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