次世代継承学

【第99話】人間とデータは不可分になろうとしている。

「労働市場データ一つで何兆円と経済が動いてしまいます。しかしそのデータの確からしさは誰にも分からないし、証明は出来ない。このままで良いのだろうか?」
大学の経済学教授とお話をした際に、データについて考えさせられる言葉を頂きました。

「政府のデータは国際的な基準やガイドラインに従って、統一的かつ透明な方法で収集・分析・公表されている。」
政府が提供するデータは正しいと証明できるという意見があります。
日本の労働市場データは、国際労働機関(ILO)の概念や定義に基づいて作成されていると。

その方法や結果は、政府統計の総合窓口であるe-Statや、内閣府の統計委員会などで公開されているのだと。

「データの操作や改ざんがあるはずで、正確だと思えない。」
一方、政府が提供するデータは正しいと言えないという意見があります。
政治的な目的や利益によって、操作や改ざんされていると。

例えば、中国の労働市場データが、経済成長の目標を達成するために、実際よりも高く見せているように。

「政府や中央銀行、研究機関やメディア、企業や人間はデータを信頼して動く。」
労働市場データとは、雇用、失業、賃金、労働時間、労働力参加率など、労働者や雇用主の状況を表す統計情報のことです。
経済の動向や需要と供給のバランス、社会保障や税制などの政策の効果や必要性を判断するために利活用されています。

そして、政府が提供するデータは、第三者の検証や評価に耐えることができるものとなっています。
例えば、日本の労働市場データは、国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)から定期的にレビューや分析が行われています。

つまり、第三者から信頼性や妥当性が確認されていることを担保に、政府のデータを信じてそれぞれが施策を実行出来ているということです。

「完璧なデータなど存在しない。」
しかし、どんなデータも完璧ではなく、様々な誤差や偏りが存在すると言われています。

例えば、調査の対象や方法、時期や頻度、定義や分類などによって、データの質や精度が変わることがあります。
それで言うと、インドの労働市場データは、調査の対象や方法が十分でなく、非正規雇用や農業部門などの労働者を過小に見積もっていると批判されています。

また、データの収集や分析には、人的なミスや操作、政治的な圧力や利害などが介入することもあり得るでしょう。
アルゼンチンは、政府がインフレ率を低く見せるために、統計局の職員を交代させたり、データの計算方法を変更していると報告されています。

さらに、データの解釈や利用には、主観や先入観、思い込みや偏見などが影響することもあります。
例えば、アベノミクスの成果を評価する際に、政府や与党は、雇用や賃金の改善を強調します。
しかし、野党や労働組合は、非正規雇用や格差の拡大を指摘するなど、データの見方や意味づけが大きく異なることがある ように。

「鉄道は経済発展に不可欠ではない。」
アメリカの経済学者ロバート・フォーゲルは『鉄道の重要性』において、鉄道がアメリカの経済発展に与えた影響を明らかにしました。

鉄道は国内輸送費を引き下げ、新しい地域と生産物を商業市場に登場させました。
その効果について、誰もが鉄道の重要性を疑いませんでした。

しかし、統計的な手法や計算機の技術を用いて、定量的に評価し、その影響は限定的であったと結論づけています。

「その知識を集約し、伝達し、利用することは、市場のメカニズムによってのみ可能である。」
オーストリアの経済学者フリードリヒ・ハイエクは『社会における知識の利用』において、経済活動における個人の知識や情報の役割や価値について、深い洞察を示しています。
経済の計画や調整に必要な知識は、分散しており、不完全であり、変化するものなのだと。

シンギュラリティが盛んに話題に挙がる今。
世界は加速度的にデータと不可分な領域に向かおうとしています。

「データサイエンティストが世界で最もセクシーな職業になる。」
そんなことが言われたこともありました。

手塚治虫『火の鳥』で描かれたように、AIを国家元首とするような世界が生まれるかもしれません。
或いは、AIを神と崇めるような宗教が生まれるかもしれません。

さらに言えばメタバースやデジタルツインの世界では人間をデータ化するというプロジェクトもあります。
データ信仰とでも言いましょうか。

私たちが信じているデータとは、真理の証明なのでしょうか?
私は、よくて指針だと捉えています。

行雲流水、移ろいゆくもの、ゆらぎが人間だとするならば、人間を完全なデータとするのは難題だと考えています。

では、データを信じないことが正しいのか。
しかしながら、それもそれで予測が出来ないために経済市場が鈍化する原因になるでしょう。
なぜなら、経済はデータを盲信することで成立していますから。

私たちはデータという数字について、新しい角度から捉え直す必要があるのかもしれません。


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