次世代継承学

【第121話】技術自立を目指すべき vs 国際協力を推進すべき

「日米貿易摩擦を避けるために日本から韓国へ技術移転をした結果、長期的に日本の半導体産業にとって逆効果になってしまった。」

メーカー勤務の技術者とお話をした際に、技術氾濫時代における身の振り方について考えさせられました。

「切り札は先に見せるな、見せるならさらに奥の手を持て。」
冨樫義博『幽遊白書』で語られたセリフです。
かつて日本の半導体事業は、切り札を見せるどころか韓国企業(サムスン電子)に移転した経緯があります。

当時、日本はアメリカから半導体の製造制限を受けてしまい、戦後の関係値から要請を突っぱねることが出来ませんでした。
苦肉の先として通産省及び日本の主要メーカー達はサムスン電子に技術を渡しつつ、一方で1999年に日立とNEC、三菱電機の半導体部門を合併させてNEC日立メモリ(後のエルピーダメモリ)を設立します。

それは、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)の開発・設計・製造・販売を手掛ける企業として、日本の半導体技術を守る最後の砦としてエルピーダメモリは期待されていました。

しかし歴史は残酷な結末を迎えます。

日本企業と同等の優遇措置を受けた(ホワイト国認定)サムスン電子は、固定費を徹底して抑える戦略で今の地位を築き上げることに成功して、逆にエルピーダメモリは倒産してアメリカ企業(マイクロン)に吸収されました。

その背景として、サムスン電子は国策により大型集中投資が出来て大量生産が可能になり、安売りで市場を寡占化に成功。
後に、市場シェアを高めて相場をコントロール出来る立場になってから高利益体質に移行させて行ったと。

悪口を言うわけではありませんが、サムスン電子の技術はほとんど貸与されたものばかりです。
悲しいことに、日本の切り札を吸収して最強のライバルになってしまったと。

  • DRAMの設計技術はアメリカのマイクロンからの技術供与。
  • 半導体製造技術は日本のシャープからの技術供与。
  • NANDフラッシュは東芝から技術供与。

とはいえ、これと似たような事例は豊富にあります。

例えば、アップルや任天堂の製造を担っている台湾企業(鴻海精密工業)が親しい事例で挙げられます。
それは、つまり、EMS(製造受託企業)として最高のノウハウを蓄積して、その技術力を取り込んだ後に、EMSが独自の事業戦略を展開するというものです。

技術を独占すれば標準化から外れるリスクを引き起こしてしまう。
しかし一方で、技術を渡せば出し抜かれてしまう。

そこには、国際的に展開する製造業の難しさと、今後どうすればより日本が強くなれるのかを考え直すヒントがたくさん隠れているように感じられます。

■「技術漏洩が命取りになるので独立をすべきだ。」

  1. 意見1: 国内技術の独自開発による競争力の確保が優先。
  2. 意見2: 技術流出のリスクを最小化するべき。
  3. 意見3: 国際政治の影響から自立せよ。

■「国際的に協力関係を構築していくべきだ。」

  1. 意見1: 技術交流によるイノベーションの加速が優先。
  2. 意見2: 国際標準から外れないことが重要。
  3. 意見3: 国際的なリスク分散をしておくべき。

技術自立を目指すべき

  • 目的: 国内技術の独自開発を通じて、国際競争力を確保し、技術主権を保持する。
  • 建前: 技術革新と産業の自立を通じて、国家の経済的独立と安全保障を強化する。
  • 本音: 国際協力に依存し過ぎると、技術流出や外部依存のリスクが高まる恐れがある。
  • 信条: 自国の技術力の向上と保護を最優先し、長期的な産業競争力を確保する。

■国際協力を推進すべき

  • 目的: 国際的な技術交流と協力を通じて、イノベーションを促進し、グローバルな競争力を強化する。
  • 建前: 国際社会との協力により、共通の課題解決と産業の持続可能な発展を目指す。
  • 本音: 国際協力はリソースの有効活用とリスク分散には有効だが、技術依存や政治的なリスクも伴う。
  • 信条: 開放性と協力に基づく国際的なパートナーシップを通じて、共通の利益と成長を追求する。

■理想と現実の間

技術開発のスピード: 理想では、迅速な技術開発とイノベーションが可能ですが、現実では、高度な技術開発には膨大な時間とコストが必要となります。
つまり、リソース不足が開発競争にダイレクトに影響を与えるということです。

国際協力の複雑さ: 理想では、国際協力がスムーズに進み、共通の目標に向かって努力できると考えられますが、現実では、政治的な対立や経済的な利害の衝突が障壁となることがあります。
国と国同士のみならず、企業と企業、或いは国と企業の関係性が障壁となっていることが課題です。

◆技術流出のリスク: 国際協力を進めることの理想は、技術の共有による相互の成長ですが、現実では、技術流出によるセキュリティリスクや競争上の不利益が懸念されます。
サムスン電子や鴻海のように、技術蓄積をどう活用転用していくかは国策のバフも影響しており、信頼関係の結び方が非常に難点となっています。

◆資源の配分: 理想では、必要な資源が適切に配分され、効率的に利用されることを想定しますが、現実では、資源の不足や配分の不公平が問題となることがあります。
例えば、私は資源を握ることが第一優先だと考えていますが、実際には国営企業でない限り優先順位を統一させることは難しく、今後の日本は資源不足から他国に技術移譲するリスクがどうしても拭えません。

■乖離を埋めるための事例

  1. 共同研究開発センターの設立
    • 日本と海外企業と共同で研究開発センターを設立し、半導体技術のイノベーションを目指す。このセンターでは、両国の研究者が最先端の半導体技術に関する研究を行い、新たな半導体製品の開発を共同で進める。
  2. 国際技術標準の共同策定
    • 日本が主導で国際的な半導体技術の標準化を進める。これにより、技術の互換性が保証され、より広い市場での製品展開が可能になる。
  3. 技術移転と人材交流プログラム
    • 技術自立を目指しつつも、国際協力の枠組み内で技術移転と人材交流を促進するプログラムを実施。若手研究者や技術者が両国間で交流し、知識と経験を共有する。
  4. 持続可能な供給チェーンの構築
    • 日本がアジア諸国と協力して、半導体産業における持続可能な供給チェーンを構築。リサイクル材料の使用やエネルギー効率の高い製造プロセスの開発に取り組む。
  5. 国際共同研究プロジェクトの推進
    • グローバルな課題解決を目指し、他国とも連携した国際共同研究プロジェクトを推進。例えば、AI技術を活用した新世代半導体の開発や、環境に優しい半導体製造技術の研究などが挙げられる。

■未来を担うべき主体

  • 政府: 国家レベルでの政策策定、国際交渉、資金提供の役割を担います。
  • 企業: 技術開発とイノベーションの推進、国際協力の実施主体としての役割を果たします。
  • 学術界: 基礎研究の推進、技術開発のための知識提供、人材育成の場としての役割を担います。
  • 国際機関: 国際協力の枠組み作り、異なる国や地域間の調整役としての役割を果たします。

これらの手段と主体が連携することで、理想と現実の乖離を埋め、持続可能な半導体産業の発展を実現することが可能になると考えられます。

■乖離を埋めるための具体的な手段

  1. 政策と規制の整備: 国内外の技術開発と協力を促進するための政策や規制を整備し、技術流出のリスクを管理します。
  2. 国際的な枠組みの強化: 国際協力を促進するための枠組みを強化し、政治的・経済的な障壁を低減します。
  3. 研究開発の共同投資: 国内外の企業や研究機関との共同投資により、研究開発のコストを分担し、イノベーションを加速します。
  4. 人材交流プログラムの拡充: 技術者や研究者の国際的な交流を促進し、知識の共有と技術力の向上を図ります。
  5. 情報共有と透明性の確保: 技術開発や国際協力のプロセスにおいて、情報の共有と透明性を確保し、信頼関係を構築します。

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