事例分析

【CASE8】過去最高益のハードオフからみた考察

今回は、2024年3月期通期決算で過去最高である301億円の売上高を記録した「ハードオフコーポレーション」について考察していきます。


問題提起

中古品の買取・販売を事業のメインに据えるハードオフコーポレーションが絶好調です。

環境意識の高まりや物価高に伴うリユース品需要の拡大を追い風に、2期連続で過去最高を更新しています。

中でも、パソコン、オーディオ、カメラ、ゲーム、楽器などを扱うハードオフ事業は、100億円を叩き出している模様。

何がそうさせているのでしょうか。

その背景に迫ります。


背景考察

ハードオフ事業の中で根強い人気を誇るのがジャンク品であり、売り上げの約20%を占めているそうです。

「周囲からは『こんなゴミが売れるはずがない』と大反対されたそうです。とはいえ倉庫には山積みのジャンク品があったのも事実で、その社員は『パーツ取りの需要がきっとあるはず』と譲らなかった。

最終的には社員の熱意に押される形で、新聞紙1枚分のスペースでジャンク品の取り扱いがスタートしました。
早速、壊れたオーディオやアンプを並べてみると、なんと初日で完売。
すぐに正式なジャンクコーナーが設けられました。」

週刊現代

ジャンク品は、機能不十分ではあるけれども、姿形は現存しているという状態です。
もちろん、わかりやすくパーツ取りという意味で価値が見えますが、それ以上にどのような価値が宿っていると考えられることが出来るでしょうか。

「あなたには、忘れられない一品がありますか?」
昔遊んだ懐かしいゲームソフトやウォークマンあるいはカメラやレコード‥、これまでの人生の中で、あなたにも思い出の一品があるのではないでしょうか。

自分が慣れ親しんだ一品は、眺めるだけでも楽しいという人が多いと言います。
その理由は、あの頃を思い出せるからだそうです。

それは、どんなリフレッシュやリラックスよりも尚深く、時間の間隔を超越して自分の内面世界に連れていってくれます。
そのような現象を「無意志的記憶」と言いまして、それは、自身の意志とは関係なく昔の記憶が蘇ることを意味します。

例えば、フランス文学の最高傑作と評される、マルセル・プルースト『失われた時を求めて』があります。
それは、マドレーヌを口にした瞬間、少年時代の記憶が甦る奇妙な感覚を覚えて、絶え間なく流れる時間の中で見失った「私」を取り戻すお話です。

言い換えれば、無意志的記憶を遡り、その記憶に辿り着いた時、「失われた時」と「今」が一致して、「私が私になる」という感覚を取り戻すということです。

現在、リセールの市場規模は約3兆円と言われています。


それは、大量生産・大量廃棄・大量消費の時代を経て、我々は消費媒体に対して記憶というマーキングを読み取ることに成功した証なのかもしれません。

そして、マーキングを読み取るきっかけがマドレーヌだったのだと。


ここで重要な視点は、従来の体験価値は「第三次産業」に紐づいていたけど、実は「第二次産業」においても体験価値は提供出来るのではないかという可能性です。

つまり、元来人間には、外界の異物(例えば、ジャンク品や中古品)に宿った記憶を五感によって引き出す力があったと考えることが出来るでしょう。
例えば、古来は紫が権威の証とされて、香を焚いて仏様に身も心も清浄にして近付いたように。

また近年、リセールバリューに基づいた購買行動に注目が集まっています。
それにより希少品や限定品はもちろんのこと、あらゆる購買において5年後や10年後を見据えて投資するという方が増えて来ました。

しかし裏返せば、買いたいと思う人がマーキングを読み取ることが出来なければ付加価値は付かないということです。
実店舗というアナログは、手に取って触って匂いも嗅いでもらえるため、読み取り方が多彩で付加価値がもたらされやすい。

つまり、デジタルでは知覚出来ない感性がそこにあったからこそ、ハードオフは顧客から支持されたとも考えることが出来ます。

そう考えていくと、記憶を呼び覚ます力がより増幅された時、物質に魂が宿ることを極めて近接的に体験できる時代が来るとは思いませんか?


結論

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