次世代継承学

【第58話】知識の深さと広さのどちらを求めますか?

「一つの事柄についてすべてを知るよりも、すべての事柄について何らかのことを知る方が、ずっとよい。」
フランスの哲学者ブレーズ・パスカルは、知識の深さと広さについて考えさせられる言葉を残しています。

「深い知識がなければ、その分野での真のイノベーションは不可能だ。」
専門性の高い深い知識が重要だという意見があります。
特定の分野での専門知識が、技術革新や専門職の需要を満たすために不可欠なのだと。

「多様な知識があることで、異なる分野を結びつけ、新しいアイデアを生み出すことができる。」
一方で、広い知識を持つことが重要だという意見があります。
多様な知識が創造性や柔軟な思考を促進し、複雑な問題を多角的に解決する能力を高めると。

知識の深さを追求すべきか、それとも知識の広さを追求すべきか。
あなたはどう思いますか?

知識の深さと広さの二項対立は、教育の分野で長い間議論されてきたテーマです。
教育の多様化とともに、学際的な学びが重視されるようになりました。
その一方で、専門職の需要も高まっています。

例えば、STEM(科学、技術、工学、数学)分野では、専門的なスキルが求められます。
しかし、ビジネスやデザインの分野では、広い視野が必要とされています。

そのため、学校の先生は常に頭を悩ませています。
生徒が広範囲の科目を学ぶべきか、それとも少数の科目を深く学ぶべきか。
また、どの科目が深く学ばれるべきか、そしていつ生徒に専門化を導入すべきかという点で悩まれています。

「問題を認識すれば人間は必ず困難を乗り越えるものと決まっている。そんな点で若者たちは同僚、友達と徹底的に討論して論争をしなければならない。」
ノーベル物理学賞を受賞した東京大学名誉教授の益川敏英さんは、素粒子物理学におけるニュートリノ振動現象の発見に貢献しました。
この発見は、ニュートリノに質量があることを示すものであり、物理学界に大きな衝撃を与えました。

一念天に通ず。
この発見に至るまでに長年にわたって物理学における深い知識を蓄積し、実験や理論の両面から研究を進めました。
まさに深く専門性の高い知識と弛まぬ努力が功を奏した事例です。

しかし、だからといってそれだけが正解かと問われるとそうとは言い切れません。
特に現代の変化する労働市場や仕事の未来に対する不確実性を考えると、専門化が逆効果であることもままあります。

「デザインは、それがどのような見栄えで、どのような感じを与えるか、といった見た目のことだけではなく、どのように機能するのかが大切だ。」
アメリカの起業家スティーブ・ジョブズ氏は、ハードとソフトの設計開発に携わりながらも需要と感性に響く製品を作り上げました。
それは、多彩なインスピレーションを大切にしてきた結果だと言えるでしょう。

もしも彼が専門特化した目線の持ち主だったならば、それはAppleの偉業は成し遂げられなかったと考えられます。

では、ここで一緒に考えて頂きたいことがあります。
「人間にとって、普遍的とされる知識とは何か。」
あなたはどう思いますか?

「常識とは18才までに積み上げられた先入観及び偏見のコレクションにすぎない。」
ドイツの理論物理学者アインシュタインは、常識を普遍的な知識と捉えませんでした。

「それは、良識ある大人のすることではない。」
日本人は、常識よりも良識を問う方が多いイメージがあります。

常識も良識も誰かが決めた範囲の知識では無いのにも関わらず、なぜか集団を規定するものとして世に成立しています。
そもそもそれは、誰が成立させているのでしょうか。
民意の総意なのか、それともオピニオンリーダーが簡易的に断罪をした結果なのでしょうか。

「左脳半球の視点が支配的になりつつある現代世界では、物事を文脈の中で見る能力が失われつつある。」
心理学者イアン・マクギルクリスト氏は、右脳・左脳の議論の多くは間違いだと提唱していることで有名です。
言語や理性は左脳、視覚や感情は右脳が司るというが、実際には言語も理性も視覚も感情も、左右両方の脳で扱っているのだと。

その彼によれば、そもそも知識の深さと広さは専門化や多様性に関する議論ではないと言います。
つまり、それは、世界への注意の仕方と関連していると指摘しています。

すなわち、普遍的な知識とは、見える世界に対する態度そのものなのかもしれない。
そんなことを考えさせられます。

「『これってあのサービスと似ている』だとか『あの人達もやっているから』という理由で物事を進めてはいけません。基本的原理を疑ってかかるよりも、成功している人を真似するほうが頭を使わなくて済みますが、それではだめです。」
南アフリカ共和国の起業家イーロン・マスク氏は、たとえどれだけ壮大な物事であっても基本原理から逆算することを怠りません。

その徹底は、自社の敷地内に学習施設を用意して、子どもの教育カリキュラムの根幹として採用しているほどです。
つまり、彼にとっては、第一原理思考で捉えるそのこと自体が普遍的な知識そのものだということです。

ルネサンス期の万能人や20世紀の博識家と呼ばれた人々たち。
垂直と水平に思考を展開出来る人々たち。

それは先天的な才能か、それとも後天的な才能なのでしょうか。
あなたはどちらだと考えますか?


※パスカル とは ※「大発見」の思考法 ※イーロン・マスクについてより深く知りたい

未来を予測する”きっかけ”を生み出すメルマガ

似たような情報や視点に囲まれてしまう現代社会。
この先もネットの情報はますますあなたに
最適化されていきます。

でもそれで本当に良かったのだろうか?

成功事例の横展開が業界にイノベーションをもたらすように、
身近でない情報が実は突破の糸口になったりする。

共通点を繋ぎ、線と面で捉え直すこと。

それが我々の贈る言葉の特色であり、
情報から光を引き出す編纂技術だと考えています。

考えるきっかけとなるイベント情報や新着記事を
メールでお届けいたします

関連記事

コメント

  1. 中村彩乃

    私は、子供の頃は広い知識や経験を得た方が良くてその中から突き詰めたいものや楽しめるものを見つけられるといいと思います。
    学校の体育はいろんなスポーツをさせますが、素晴らしい選手になりうる才能を探すきっかけになっていると思います。学問でも同じかと思いました。初めは浅く広くが基本かと思います。

    また、人間の普遍的な知識は個人の中にあって、自分がどんなふうに考え行動し、選択して生きていったら、楽しく平安にいられるかの方法のことだと思います。その方法は個人それぞれ違いますが、それを見つけ出せるパワーが普遍的に大事だと思いました。
    勉強も、自分がどういう勉強方法をすれば効果が上がるかの方法を編みだけるか出せないかがある程度の学力を左右すると思います。

    知識の深さを持っている人と広さを持っている人、両方たくさんいるからこそいいアイデアは生まれて、世の中が便利になったり良くなったりすると思います。
    個人で考えてみると、ある分野を好きになって夢中になれるとその分その人の幸福度が上がる気がします。
    子供〜若い年代でいろんなものに触れて経験し知識を得て、大人になってから自分の好きな分野の深みを得られるといいと思います。

    • 青木コーチ

      コメント頂きありがとうございます!

      「それを見つけ出せるパワーが普遍的に大事だと思いました。」
      この言葉が印象に残りました。

      パワー、つまり、原動力ってとても大切です。
      車にはエンジンがあって、エンジンにはガソリンが必要なように、人間も同じです。

      人は生きるために、三大欲求が必要だという意見があります。
      しかし、私は、三大欲求の上に上位概念があると考えています。

      それは、思考欲というものです。
      人は希望が無ければ生きられない、希望は想像より生まれる。
      想像とはそもそも自我による思考があって生まれるもの。

      つまり、思考欲が人のエンジンであり、ガソリンは希望なのかもしれない。
      希望というガソリンはどこから補給するのか。

      それが、日々の学びや体験なのだと。
      資源が枯渇した人間は生きる希望も無ければ、明日を生きようとする力も湧いて来ないのかもしれない。
      だから、パワーを維持する活動を習慣にすることがとても重要なのかなと。

      そんなことを考えさせられました。

CAPTCHA