次世代継承学

【第54話】変わる世界と変わらぬ想い

「なぜ日本の産官学は、自国の強みである”カイゼン”を軽視し、アメリカの経営手法を追求するのか?」
ある大手企業の経営者とお話をした際に、日本のカイゼンについて考えさせられる言葉を頂きました。

「アメリカの経営手法は実績があり、多くの企業が成功している。日本もそれを学ぶべきだ。」
日本の伝統的な経営手法は時代遅れだという意見があります。
アメリカの経営手法が現代のビジネス環境に適しているのだと。

「カイゼンは日本の誇り。アメリカの経営手法に追随する必要はない。」
一方で、日本の「カイゼン」は永遠の普遍的価値を持っているという意見があります。
アメリカの経営手法は一時的な流行に過ぎないのだと。

欧米諸国の最新を常に取り入れて変化するべきか、それとも普遍的な強みを保持するべきなのか。
あなたはどう思いますか?

「ハーバード式〇〇やスタンフォード式〇〇などが多い気がする。」
日本の書店に行けば、アメリカの経営手法やビジネスモデルを取り入れた本が並んでいます。
何がそうさせているのでしょうか。

日本の産官学がカイゼンを軽視し、アメリカの経営手法を追求する背景には、いくつかの要因が考えられます。

一つは、日本経済がバブル崩壊後に長期の停滞に陥ったことによる自信喪失が理由だと言われています。
アメリカの経済がIT革命やグローバル化により躍進する傍らで、日本は失われた30年を経験しています。
つまり、日本の経営者や政策決定者が世界に対して憧れや劣等感を抱いたことが想像出来ます。

もう一つは、日本が長期的な視点や人間関係を重視するのに対し、アメリカは短期的な利益や株主価値を重視する点です。
日本のカイゼンは、遅効性で不可視な場合もあるため実感が得られにくいのだと。
そして、漠然と大胆な変革や創造性を欠くのではないかという印象を与えているという説があります。

例えば、アップルはスティーブ・ジョブズのカリスマ性やイノベーション志向、顧客満足度重視の経営手法によって、世界最大の時価総額を持つ企業になりました。
またウォルマートは、サム・ウォルトンのコスト削減や効率化、従業員への配慮などの経営手法によって、世界最大の小売業者になりました。
そしてネットフリックスは、リード・ヘイスティングスの自由度と責任感、データ分析やテストなどの経営手法によって、世界最大の動画配信サービスになりました。

しかし、本当にアメリカの経営手法は万能なのでしょうか。

例えば、エンロンやリーマン・ブラザーズなどの企業は、アメリカの経営手法に基づいて短期的な利益や株主価値を追求した結果どうなったか。
不正会計や金融危機を引き起こし、倒産や解散に追い込まれました。

また、日本のシャープや東芝もアメリカの経営手法を導入しました。
しかしその結果、自社の強みや伝統を失い、経営危機に陥りました。

「どんなに持て囃された手法であっても、インストール先の良し悪しに左右されるものだ。」
例えば、トヨタは、豊田章男社長のもとで「トヨタ生産方式」や「トヨタウェイ」などのカイゼン手法を継承し発展させています。
また、ユニクロは、柳井正会長兼社長のもとで「全員参加型改善活動」や「全社員教育制度」などのカイゼン手法を導入し推進しています。
そして、ソニーは、平井一夫社長兼CEOのもとで「ソニーのDNA」や「One Sony」などのカイゼン手法を復活させて返り咲きました。

しかし、カイゼン手法で上手く行かない事例も当然あります。

例えば、日本航空や日産自動車は、品質と生産性を上がったけど市場環境や顧客ニーズの変化に対応出来ず経営難に陥りました。
また、日本の家電メーカーは軒並みイノベーションや差別化に欠ける点で、海外勢に市場シェアを奪われました。

つまり、どのような手法でも、必ずしも競争力を保証するものではなく、場合によっては停滞や衰退に繋がることがあるということです。

では、ここで一緒に考えて頂きたいことがあります。
「隣の芝生が青く見えた時、どのような心持ちが望ましいのでしょうか。」
あなたはどう思いますか?

「自分を信じない奴なんかに、努力する価値はない。」
自国の強みを傍らに置いて、他国に追従しようとする姿勢。
それは、明治維新以降の日本が西洋文明を積極的に取り入れて近代化したことに似ています。

この時期の日本は、西洋文明の優位性を認めて自国の伝統や文化を否定し、西洋化や文明開化を推進しました。
やがて日本は、自国のアイデンティティや価値観を失っていきました。

その結果、日本は西洋列強と対等になろうとして軍国主義や帝国主義に走り、第二次世界大戦で敗戦しました。

「古き善き何かとは、手放してはいけない何かでもある。」
日本は愚直に、欧米諸国に追い付け追い越せで努力を重ねました。

「アマゾン米国本社にはKaizenプログラムという制度があるんだ。」
その一方で、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスは、株主総会で「Kaizen」という日本の経営技術を紹介していました。
従業員は継続的にサービス提供プロセスを改善しているのだと。

「変わる世界と変わらぬ想い。」
市場は巡るがゆえに、普遍の真理が無いのだとすれば、変わり続けるべきです。
しかし、変わらないものも確かにあったはず。
私たちは、何を信じれば善かったのでしょうか。

あなたは、変えてはいけないもののために何を信じていますか?


※カイゼンについてより深く知りたい ※業務改善の問題地図 ※日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか

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