次世代継承学

【第68話】資源貧困大国の日本は技術革新が生命線です。

「サウジアラビアのNEOM(ネオム)プロジェクトは、持続可能な未来都市を目指していますが、このプロジェクトに日本は深入りすべきだと思いますか?」
エネルギー資源の貿易に携わっている方とお話をした際に、日本の立ち位置について考えさせられる言葉を頂きました。

「NEOMプロジェクトは日本に巨大なビジネスチャンスを提供してくれているので全力で投資すべきだ。」
積極的に関与すべきだという意見があります。
日本とサウジアラビアで行われるGHGの削減技術提携を推進することが日本の将来を大きく左右すると。
重要鉱物の探査、太陽光発電、水素・アンモニアの製造など、多岐にわたる分野での機会があるのだと。

「開発規模の大きさはそのままリスクの大きさを意味する。それにアメリカと緊張関係になる可能性を考慮すると大手を振ることは出来ない。」
一方、慎重に関与すべきだという意見があります。
アメリカとサウジアラビアの緊張関係を刺激するきっかけになれば後の外交戦略に大きな亀裂が入ると。
持続可能性と自然環境保護という計画があるものの、誰がそこに住まうのかによっては格差を象徴するランドマークになり得るのだと。

「ドバイのパーム・ジュメイラが世界最大の人工島なら、NEOMは世界最先端の未来都市だ。」
170キロに及ぶ鏡の壁、空飛ぶエレベーター、浮遊する炭素ゼロの港、タクシーは空を飛び、教師はホログラフィー、そして人工の月を浮かべる。

サウジアラビア北西部の砂漠地帯で人類の未来が拓かれようとしています。
その規模は、総面積2万6500平方キロメートルで、ベルギーの国土(3万690平方キロメートル)に匹敵します。

「資源貧困国の日本は、エネルギーの8割が化石燃料でほとんどが輸入頼み。さらに原油の95%は中東に依存している。」
世界三指に入るエネルギー消費大国の日本は、エネルギー自給率が10%前後です。
つまり、中東のご機嫌を損ねた時点で詰むということです。

「NEOMに参画することは、国益を考えれば当然だ。サウジアラビアとブルーアンモニアの技術提携をしたのはこれから始まる資源革命の一手だよ。」
世界の脱炭素化に向けて、化石燃料の炭素排出を抑えるためには2つの方法しかありません。
それは、CCS(地中に埋める)とCCUS(炭素の別エネルギーに変換)です。

日本はCCUSにおいて、水素とアンモニアを混ぜることで化石燃料を使っても炭素を排出しない技術を持っています。
この先端技術こそが今後20年を占う生命線であり、これが産業スパイに奪われて開発競争で負けた時点で未来は閉ざされます。

「NEOMに参画することで重要鉱物の探査や精製、太陽光発電の整備、水素・アンモニアの製造など、多岐にわたる分野での機会がある。」
日本はサウジアラビアの石油依存を解消する最大のパートナーになり得る可能性があります。
そして、中東地域の平和と安定に寄与できる可能性もあります。

だからこそ、国益を考えればNEOM関与することは当然で、もしこのメリットを享受できなければエネルギーの安全保障は保てません。

「NEOMプロジェクトの実現性や持続性に疑問が残る。」
サウジアラビアの政治的・社会的・宗教的な制約や、地域的な緊張や不安定さ、技術的な困難やコストの高さ。

しかし現在、NEOMは多くの障壁に直面しています。

例えば、強制退去が命じられて、反対した住民は死刑になった。
そんな話もあることから、プロジェクトの実現可能性と世論の目は厳しい状態にあると言われています。
当然ながら、日本がNEOMプロジェクトに大きく関与することで、これらの障壁に巻き込まれるリスクが高まる可能性があります。

「経済の主力産業はエネルギー分野。中東最大の産油国であり、同国の石油確認埋蔵量は世界第2位だが、将来的には石油依存の脱却を狙っている。」
サウジアラビアには、伝統的なイスラムの系統に沿ったサウド家によって統治されています。
そして、イスラム教の聖地であり、預言者ムハンマドの生誕地であるメッカがあります。

NEOMは将来的に石油依存からの脱却を目指したプロジェクトです。
しかし、当面の資金源は石油の輸出収入に頼り、石油依存を継続することを意味します。

つまり、石油価格の変動や需要の減少によって資金難に陥る可能性があるということです。
それが、中東戦争とアメリカの緊張関係です。

1973年に起きた第一次石油危機から50年の節目となるのが2023年だった。
しかし、ここに来て中東戦争が勃発している。

これは偶然ではありません。

「資源エネルギーのコストが上がれば、日本は衰退する。」
入札競争と多重下請け構造で批判されて印象の悪い製造業。
しかし、日本経済を支えてきたのは紛れもなく製造業です。

エネルギーコストが上がれば中小企業は大打撃を受けて、産業の空洞化は加速するでしょう。
すると雇用が減りますます日本人の仕事は奪われていきます。

つまり、エネルギーコストは日本経済の生命線と言えるでしょう。

「正味な話、内閣と野党でムダな揚げ足取っている場合じゃない。資源問題を語れないパフォーマンス政治家は必要ない。」
これは、官僚組織の方とお話した際に頂いた言葉です。

日本は世界最大の純債権国。
しかしそれは市場経済、債権や株価という経済の仕組みがあっての話です。

「胡座をかいて踊っていると痛い目に遭うのではないか。」
デジタル円の導入、ICOによる経済の転換、保有資産凍結リスク。
そんな物語はありえないと思うかもしれませんが、万が一は考えておく必要があります。

なぜなら、資源が貧困であることは疑いようもない事実ですから。

「排他的経済水域のどこかに、現在の可採採掘量を覆す何かがある。」
だとするならば、少なくとも、非在来工法には最大限の公的資金を導入して技術者の増強と技術促進を進めておくべきだと考えます。

「資源にまつわる技術戦略について取り上げない時点で、従来のマスメディアは国益を考えていないのではと勘ぐってしまう。」
マスメディアは日本の成長戦略を国民に示すべきだと思います。
でなければ、国民は政府が地道に進めている外交戦略が理解できず、予期せぬ氾濫を招いてしまうリスクが高まりますから。

「中東からの貿易ルートがアメリカによって治安維持されている以上、アメリカを敵に回してはいけない。」
シェール革命により自給自足が出来る上に、市場価格の釣り上げを狙ってイスラエルと結託するアメリカ。
さらにSMR(次世代型小型原子炉)を売りたいという展開も考えているでしょう。

本音は原発を30基動かしたいけど、原発反対の声を尊重して8基前後しか動いていない日本。
供給余力がないことを世論に訴えて、資源貧困の路線で国民に原発稼働を宣言して、アメリカのSMRを導入するのでしょうか。
それとも、アメリカとは、石炭と重要資源を握る中国を抑えるために別の側面で協力するのか。

では、日本のポジショニングは今後どうすべきなのでしょうか。

「資源貧困は、逆に言えば、消費大国。消費が無ければ経済は回らない、需要を持っている強みから有利な条件を引き出してルール整備に参画すること。」
つまり私は、世界の風紀委員として国際関係を編み直す役割を担うべきだと考えています。
そして、技術流出を避けることと国際法で不利にならない状態を作ることを目指すべきではないかと。
そんなことを考えさせられました。


※新しい世界の資源地図 ※サウジ王族等粛清の背後に潜む闇と液状化する中東地域情勢 ※資源がわかればエネルギー問題が見える 環境と国益をどう両立させるか

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