事例分析

【CASE19】仮想通貨から考える生活保障の未来

今回は、「仮想通貨」の観点から、「生活保障」について考察していきます。


問題提起

「多くの小学生は(すべての人に金銭を無料で分け与えることが)いいアイデアだと思っています。」
「けれどもわたしが知る限り、名案だという意見はあっても、それを実現するための本格的な計画はこれまでひとつもありませんでした。」
ChatGPTの創業者サム・アルトマンが、UBI(ユニバーサルベーシックインカム)プロジェクトを牽引しています。

その肝となるのがWorldcoinという仮想通貨で、地球上のすべての人に少しずつ分け与えることでUBIを実現させる計画です。

ブロックチェーン分析企業TripleAの調査によると、2021年の時点で世界人口の3.9%に当たる3億人が仮想通貨を保有しているそうです。
しかし、仮想通貨の分布状態は公平ではありません。
巨額の投資資金をもつ少数の人々が、全世界のビットコイン供給量の少なくとも70%を支配しているためです。

これに対してWorldcoinは「公平な通貨」であり、「かつてなく大規模な金融ネットワークを構築するチャンス」なのだと、アルトマンは語ります。

仮想通貨技術が世界的なレベルで採用されるとネットワーク効果が期待出来ます。
これにより、加速度的に「数十億人に社会的・経済的なチャンスが生まれる」とも言われています。

仮想通貨とUBIが見せる未来は、私たちにどのような変化を与えていくのでしょうか。


背景考察

仮想通貨には、改ざん防止と所有履歴を刻むブロックチェーン技術が用いられています。
この性質を利用して、株式を用いて資金を調達するように、投資家に独自のデジタル権利証(トークン)を発行し、その対価として暗号資産を払い込んでもらう方法。
すなわちICO(イニシャル・コイン・オファリング)という新たな資金調達方法も発明されました。

言い換えればそれは、株式ではなくてコインを配ることによって資金を調達しようとする動きです。

仮想通貨の種類が増えると、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などのスタンダードな暗号資産が登場しました。
取引所も設立されて、仮想通貨は株式投資と類似の性質を持ち始めます。
簡単に言えば、コインが安い時に買ってコインが高い時に手放すことで利益を確保するというものです。

その結果、億り人とも称される、仮想通貨によってお金持ちになった人たちが誕生しました。

そしてこの先、仮想通貨にも使われているブロックチェーン技術を用いてネットワークシステムは新たな領域に入ろうとしています。
それが、DAO(分散型自立組織)という考え方から着想を得ている分散型ネットワークです。

これまでの仕組みは中央集権型(集中型)ネットワークやクライアント・サーバー方式と言われており、限られたサーバーを介したネットワーク網が築かれていました。
しかしそれは、維持管理や利権の掌握という意味では優れた仕組みでしたが、中心となるサーバーに負荷が一極集中してダウンした場合やサイバー攻撃で致命的なダメージを受けるということです。
すると次第に、データ通信量が加速度的に逓増していく未来で起きるリスクを考慮した時、中央集権的な権限を持たない分散型の仕組みに注目が集まりました。

こうしたネットワークシステムの潮流について、集中型がWeb2.0だとすれば、分散型はWeb3.0の仕組みと言われています。

分散型(Web3.0)について端的に言えば、中央サーバーに依存せず、複数のサーバーに仕事を分散させるネットワークシステムです。
参加者同士がPeer to Peerで繋がっており、中央サーバーを介さずに直接取引を行うことが出来ます。
しかしその分、特定の誰かがシステムを支配することは出来ない仕組みになっています。

それは、例えるならば電力とも似た話で、以前までの一般家庭は東京電力など特定の企業から電力を買っていました。
しかし、太陽光パネルと蓄電池が一般家庭に普及したことで自家発電という概念が生まれて、電力受給先の分散とデマンドレスポンスが可能になったのだと。

また例えるならば、分散型ネットワークは銀河系に似たような構造と捉えることも出来ます。
太陽系が1つのネットワーク体だとすれば、銀河系は太陽系がいくつも折り重なった結果です。
そして太陽系の中には太陽や地球、月のように恒星や惑星、衛星が存在していると。

そう考えると、仮想通貨の普及と分散型ネットワークの成立はそもそも新たな利権を生み出す可能性があります。
それは、分散権と保守権です。

「太陽系に加盟する星は誰がどのような基準で決めて、加盟するための条件は誰がいつ何を基準に判定するのか?」
確かに、分散型ネットワークは太陽系の星々がサーバーの役割を果たし、それぞれが生態系のようになっていくのでしょう。
では、どの太陽系にどの星が属することに条件と定員があった場合、先着順で良いのでしょうか。
また、サーバーの一端を担うに足る要件や資質はどう決めていくべきなのでしょうか。

そう、分散権限と保守要件で格差が生まれることは明白です。
もちろん、法人ではなく個人だとしても、分散型ネットワークに組み込まれた星は太陽系を支える欠片ですから将来は安泰です。
太陽系から外された冥王星と太陽系の一員では、扱いがまるで違う訳です。

つまり、分散権限を得る、或いは保守要件を満たすことは、ベーシックインカムにも近い状態が維持される可能性があります。
こうして考えていくと、既存のUBIにも新たな変化を与える可能性が出てきます。

一般的にベーシックインカムとは、国や自治体が住民全員に対して一定額の現金を定期的に支給する制度です。
従来の社会保障制度とは異なり、個々の所得や資産に関わらず無条件で支給される点が特徴とも言われています。

その目的は、国民の最低限の生活を保障し、貧困に陥るリスクを軽減すること。
また、複雑化した社会保障を一本化して行政の事務コストを減らす効果や、少子化対策にも有効とされています。
ちなみに支給単位は毎月という場合が多く、現在想定されている金額は月ひとりあたり8万~15万円程度です。

「毎月の現金給付は、受給者に大きな変革をもたらさない。」
しかし、すでにアメリカではアルトマンたちがイリノイ州とテキサス州の低所得者に向けて月1,000ドルを3年間支給するという実証実験を完了させています。
その結果、受給者は食料品、交通費、家賃を支払うのに役立てたが、より良い仕事を見つけるのには活用されなかったと。

また、より良い医療へのアクセスや身体的・精神的健康の改善も限られた効果だったと。
つまり、現金を給付しても将来の所得に繋がるような投資、例えば資格取得や起業準備には使われないということです。

とはいえ、食費・家賃・光熱費・交通費といった堅実なものに使うのであれば、現金給付ではなく申請補助に切り替えることも出来るという見方が出来ます。
或いは、家賃や光熱費、交通費を決済可能な仮想通貨が支給されても同じ結果になると考えることも出来そうです。
なぜなら、現金や申請補助、仮想通貨のいずれにせよ生活必需にまつわる費用を下支えすることが重要なのだと解釈することが出来るからです。

「グラミン銀行は、貧困層を対象にマイクロクレジットを実施してノーベル平和賞を受賞した。」
マイクロクレジットとは、貧困層の自立を支援することを目的とした、主に土地を所有しない貧困層グループを対象にした融資のことです。
グループは必ずしも家族ではなく隣人も含めたものでした。

グラミン銀行は現金の貸付でしたが、新たなUBIで支給するのは現金ではなく、サーバー保守や維持管理が出来るサーバーと考えたらどうでしょうか。
もちろん一人ではなく、1グループに対してサーバー1台です。
それを維持するか、それとも売り渡すかは任せると。

「泳げない者を船に乗せるのではなく、泳ぎ方を教えるべきだ。」
言ってしまえば、換金や決済が出来る未来を考えれば、仮想通貨も現金給付と変わりません。
それは、増え続ける世界人口を船に乗せて燃料を入れ続けるようなものです。

この先の未来が、AIに触れるスキルを必須だと考えるならば、強制的にサーバーという種に触り、実を収穫する術を教える。
そんな施策を組むことで、時代に適応する人材を意図的に計画的に作り出すことも出来るのかも知れない。

そんなことを考えました。


結論

 

 

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コメント

  1. 古澤泰明

    仮想通貨のワールドコインは特定の場所(東京のとある会場など)で瞳認証をして登録すると定期的にウォレット内にワールドコインが入金されるとのことを聞き、私もやってみようか?と思った反面、瞳認証して登録するのが少し怖い気もしてまだやっていません。私が聞いた限りではワールドコインにはAIと人間を見分ける目的もあるのだとか、、、聞きかじりの知識ですが

    感じた問題点

    1.貧困の固定化
    ベーシックインカムとは平等に最低限の生活を保証することと私は理解していますが
    貧困の固定化に繋がるのではないかと考えます。最低限保証があるのだから、それ以上は働かないという人も多いのかと
    まさに記事にもあります、魚を受け取り満足する人、魚を受け取ったら「この魚はどうやったらとれるのか?」工夫する人の違いになるのかと思います

    2.通貨発行権が脅かされ、それによる混乱
    仮想通貨でなくてもマイナンバーカードのシステムが確立すれば国がお金を、必要な国民にピンポイントで支給できますが、仮想通貨ですと発行元(国とはかぎらず企業や個人)が好きに配布できるので革命的な反面、国家の通貨発行権を脅かすことになりそうですね

    3.発行元が悪徳業者で犯罪を行うリスク
    仮想通貨は簡単に発行できてしまう面もあるので詐欺や配布し価値あるものと思わせての無価値化、(秩序ある)法定通貨制度への攻撃など悪用も考えられます。ワールドコインの人間の瞳認証を集め、ただで配る真の目的は何かも不明です

    以上、記事を読んで感じました
    結論、「神は自らを助けるものを助ける」
    ということだと思います。(ただ、完全競争を否定するわけではなく、バランスが大事だと思います。)

  2. 西山亜衣香

    仮想通貨やAIなど、すごいスピードで普及されてるものに全くついていけてない1人ですが、、
    「毎月の現金給付は、受給者に大きな変革をもたらさない。」
    という部分に驚きました。
    ただ確かに現金だけ渡されても、使い方を知らない人はただ浪費が増えるだけだよな。とも思いました。

    使い方を知っている人と知らない人でより貧富の差が広がる事は明らかですが、使い方は誰でも知れる状態になり、それでも行動しない人は自己責任で、
    仮想通貨もAIもより普及して、全体をより豊かな社会になったらいいなと思いました。

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