次世代継承学

【第92話】誰がブランド品の神話を作っているのか?

「ラグジュアリーブランドの高価格な値付けは、実際のところ高騰していてある意味バブルと同じです。もはや価格の根拠を消費者は問わなくなっている。」
アパレルブランドのオーナーとお話をした際に、ブランド価値について考えさせられる言葉を頂きました。

「ラグジュアリーブランドは、高品質な素材、独自のデザイン、長い歴史と伝統に基づいて価格を設定している。」
価格は、品質と価値に基づいているという意見があります。
ブランドの独自性や限定性は、製品に付加価値を与えており、高価格になるのは当然なのだと。

「高価格はしばしばブランドイメージやマーケティング戦略によって形成され、実際の製品の価値とは乖離している。」
一方、価格は、ブランドイメージとマーケティング戦略に基づいているという意見があります。
ラグジュアリーブランドは、消費者のステータス意識やブランドへの憧れを利用して、過剰な価格を設定しているのだと。

「バーキンバッグは、所有者に高級感やステータス、自己表現や自己満足といった感情的な価値を提供し、それらは高価格に見合うものだとされている。」
エルメスのバーキンバッグは、世界で最も高価なバッグの一つであり、その価格は数百万円から数千万円にも及びます。
そこには、エルメスの歴史や哲学、レザーの品質や職人の技術、デザインの美しさや独自性、生産量の限定性や入手困難性といった要素があります。

しかしラグジュアリーブランドと言えども、一般的なブランドと同じ素材や工場で作られている場合があります。
しかし、製品をはるかに高い価格で販売することが出来ています。

なぜこれが可能なのでしょうか。

「ラグジュアリーブランドは、高価格を維持するために、生産量や流通量を制限し、入手困難性や希少性を演出することで、消費者の欲求を高めている。」
加えて、製品の品質やデザイン、歴史や独自性といった要素が消費者に高級感やステータス、自己表現や自己満足といった感情的な価値を提供しているからです。

しかしながら、それは良いことばかりではありません。

ある消費者は、ラグジュアリーブランドの製品を購入することで、自分の価値や満足を高めることができると信じています。
またある消費者は、過剰に広告宣伝されたブランド品を購入しないことで、自分は合理的で賢い消費者だと思っています。

しかし、時にその信念は、他の消費者や社会の評価に左右される可能性があります。

例えば、ラグジュアリーブランドの模造品が氾濫した場合、ブランドイメージが不祥事で傷つけられた場合、ブランドの悪評と批判が横行した場合。
その消費者は、自分が信じていた個性や独自性を失うことになるでしょう。

つまり、ブランドに依存すると、自分の内面や本質を見失う危険性があるということです。

「では、ブランドの価値を損なわずに、メーカーと消費者の善き関係を築くためにはどうすれば良いのでしょうか。」
例えばですが、素案を提起してみます。

■月額50万、150万、300万の会員ラインを3本作り、ラグジュアリーブランドの神話を啓蒙する場を生み出す
→狙いは、熱量の高い顧客と共にブランド価値を恒久化すること。

メーカーの目線
・定期便で新作を展開することで、在庫リスクを抑える
・原価高騰と中間マージンを考慮した過不足ない計画的な供給を展開する
・販売員の担当強化と新作優先分配でタッチポイントを安定させる

消費者の目線
・希少価値の高い品を安定して確保出来る
・会員同士の交流で商品以外の付加価値が得られる

↓その影響作用とは・・・

小売店の目線
・月額会員になれなかった人への救済処置として価値を享受出来る
・バイヤーの接触頻度と年数によって特典を享受出来る

波及効果
・計画供給により余剰在庫と廃棄ロスを抑えることが出来る
・形骸化したコレクションの価値を見直し、顧客教育の場とすることでブランド価値の神話を生成する

介在者の目線
・特殊性に溢れたラグジュアリーブランドの神話を語れる人が新たなコミュニティを築ける
・インセンティブが明確になるため、新たな評価制度作りが必要になる

【第92話】誰がブランド品の神話を作っているのか?

この提起は、ブランドという神話は誰がどうやって生み出して、市場にどのように浸透させるべきかを考えるきっかけになるのかなと思います。
メーカーと消費者、そして大量生産・大量消費・大量廃棄について持続可能な未来を考えるきっかけになるのかなと。

「天才とか英雄の存在なんてものは詰まる所第三者の主観による所が大きい。英雄を英雄たらしめる為には傍観者によるレスポンスがまずは必要なんだ。そしてそのレスポンスの内容が英雄を高みにも上げるし地に貶めもする。」
ブランドの神話は、消費者に認知されていなければ価値がありません。
だからこそ、高額な広告費やコレクション費用をかけて、ブランドイメージを構築することが必要になります。

つまり、価値とは、認知されて敬意を払われて初めて生まれるものだということです。

だからこそ、良質な接触頻度をどうやって生み出していくのかを考える必要があると思っています。

「身の丈に合ったブランド品を身に付けていない人は、なんだか可哀想に見える。」
身の丈に合うとはどういうことか。
それは、その対象を失うことが、当人にとって致命的な損失になるかどうかだと考えています。

つまり、その対象を失ったとしても余裕を保てるかどうかということです。

「人間の欲望は底なしだ。ブランド品を求める欲望は抑えることは簡単じゃない。」
私たちは、欲望の果てに何を求めているのでしょうか。
例えば、仏教において、欲望は苦しみの原因であり、欲望を捨てることで苦しみから解放されるとされています。

一方、ヘーゲルやマルクスなどの弁証法の思想家は、欲望は人間の本性であり、欲望を満たすことで人間は自己実現すると言います。
また、ベンサムやミルなどの功利主義の思想家は、欲望は幸福の源泉であり、欲望を満たすことで人間は幸福になるという考え方もあります。

イギリスのヴィクトリア朝時代。
社会的地位や富を示すために、過剰な装飾や高価な衣服が流行しました。
それは、つまり、社会的地位を示すための外見の重要性が、実際の品質や機能性を超越していたということです。

「市場経済は、私たちに所有欲と支配欲を満たすように求めている。」
しかし、私たちの求める満足感はそれで善かったのでしょうか。

例えば、プラトンやカントなどの理想主義の思想家は、人間の価値や満足は、物質的なものでは決まらないと。
理性や徳といった精神的なものによって決まると考えていました。

一方、ニーチェやサルトルなどの存在主義の思想家は、人間の価値や満足は、他者や社会によって決められるものではないと。
自分自身が何を成したかで決まるのだと考えました。


※世界のラグジュアリーブランドはいま何をしているのか? ※図解 アパレルゲームチェンジャー 流通業界の常識を変革する10のビジネスモデル ※ブランドカルチャライズ―あなたの商品を世界で売るマーケティングの技法

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コメント

  1. AYA

    多くの人は、ブランド品を所有していること自体よりも買える努力をしたことを認められたい、知って欲しいのだと思います。
    これが欲しいから頑張る!と少しでも頑張る気持ちを後押ししていたり、変えたことで嬉しくなったり、いいところが多いと感じています。
    自分に自信を持てたり、自分を鼓舞できたりと自分を維持するためのものだと思います。
    ただ、いくつブランド物を持ったら満足がいくかわからないです。
    もし好きなブランドがあっても、何かのきっかけで世間的な評価が下がれば飽きるかもしれないです。
    価値をブランドに依存せず、自分を持ち上げるためのものとして使いたいと思いました。

    • 青木コーチ

      いつもコメントありがとうございます!

      「買える努力をしたことを認められたい、知って欲しい。」
      この言葉が印象に残りました。

      「自分の成果に対して妬みや嫉妬が生まれるか、それとも称賛の言葉を掛けられるか。それであなたのレベルが分かる。」
      例えば、ブランド品を持つことに対して周りがどのような反応をするのか。
      自分の人間性によって、周囲の反応は大きく変わります。

      「パパ活がトレンドになった途端に、若くてかわいい子がブランド品を持つと偏見の眼差しを向けるようになった。」
      一部でそのような意見を聞いたことがあります。
      素直にどんな努力をしてそのブランドを手に入れたのかを聞いてみればいいのになと思いました。

      「これだけ頑張れた。次もきっと出来るはずだ。」
      仰るように、ブランド品は本来、人に見せるためのものではなく、自分に自信を持つ手段なのかもしれません。
      たとえ持っている物は同じでも、使い方一つでそこに品性が垣間見えるんだなと思わされました。

  2. 星屑のかけら

    こんにちは。いつも楽しく拝読しています。

    私はブランド主義の考えに対しては中立的な立場です。
    その人にとって、その値段を払うだけの何かしらの意味があるのならば買えばいいし、意味を感じないのであれば買う必要はない。と考えています。

    ブランド品を買う意味というのは、
     ある人にとっては社会的ステータスだし、
     ある人にとっては承認欲求だし、
     ある人にとっては自己満足かもしれません。

    単にものを持ち運ぶバックが欲しいのであれば、極端な話、ビニール袋でも機能は果たすわけですから。

    近年エコバックを用いる人が増えたと聞きますが、
    エコバックを作り運搬し使用者の手に届くまでのコストは、ビニール袋のコストの100~200倍であるという話を聞いたことがあります。
    (この話で出る”コスト”とは、消費する石油量だったはずです。)
    果たして、エコバックを使っている人は本当にエコなのでしょうかね。
    自己満足に浸っているだけなのかもしれません。

    ブランド品の話へ戻すと、
    あるアパレル店員の方と店頭で話している時に伺ったのですが(営業トークの1つであり、真実ではないかもしれません)
    『この商品は某格安量販店にも同じような見た目でここより安く売られていますが、実際には生地が全くの別物で、某格安量販店のものは一般的なパンツにロゴを載せているだけですよ。』
    言葉は違えど、このようなトークをされました。

    結局パンツはそのアパレル店で買いましたが、
    それ以降『ブランド品ってなんなんだろうな。ロゴ代に払っているだけなのかな。』
    そんなことを思わされています。

    • 青木コーチ

      いつもコメントありがとうございます!

      「ブランド品ってなんなんだろうな。ロゴ代に払っているだけなのかな。」
      この言葉が印象に残りました。

      「ただの白い布にロゴを付けるだけで2桁増える。」
      スポーツメーカーの担当者も類似することを仰っていました。
      だから広告宣伝費を使ってとにかくブランディングを高めたいのだと。

      人間に権威を付けるために、色が大きな役割を果たしています。
      例えば、紫は王の象徴として扱われるなど。

      ブランドロゴやデザインも大事です。
      しかし個人的に最も大切だなと思わされるのが、質感です。
      質感には、色味やテクスチャーが大きな役割を果たしています。

      質感を演出するための、組み合わせ。
      それを引き立てる形状はどう在るべきか。

      制作過程においては、そのようなアプローチが大切なのかなと。
      そんなことを考えさせられました。

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