今回は、「月の資源」の観点から、「国際構造」の競争と協調のダイナミクスについて考察していきます。
問題提起
月の表面に多く見られる鉱物は、カンラン石、斜方輝石、単斜輝石など。
聞き慣れない名称だが、もう少し馴染みのある言葉に換えれば岩石名でいうと玄武岩だ。
玄武岩の粉末は加熱することでレンガを作ることができる。
イルメナイトという鉱物も多いが、これはチタンと鉄が結び付いて酸化したものだ。
つまりイルメナイトを分離すれば、この2つの鉱物と酸素が手に入るというわけだ。
月面には、鉄の粒子や直径0.1mm程度のガラス球が豊富に含まれていることもわかっている。
磁気や静電気などを利用すれば、純鉄やガラス材が簡単に採取できるのである。
さらに挙げれば、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、シリコン、クロムなどなど。
中には、地球に存在するより多くの量が月にあるとされるものもある。
―2020年 日本人の月移住計画は もう始まっているー
「月面資源は、果たして誰のものなのか?」
月面資源の商業的利用が現実味を帯びる中、「資源の所有権」が、今や地球を越えて宇宙空間に及ぶ問題として浮上しています。
国際宇宙条約に基づき、月や他の天体は「全人類のためにある」とされているが、果たして現実はそれほど単純なのでしょうか?
大規模な宇宙投資により最先端のテクノロジーを駆使した探査機が月面に送り込まれ、多くの国々が採掘権を主張し始めた現在。
私は、その原則が時代遅れとなりつつあるのかもしれないと感じています。
一見すると、科学技術の進展が月面の利用を実現し、新たな成長と繁栄の道を切り開くようにも思えます。
しかし、背後には人類がこれまでの歴史において繰り返してきた「支配と資源独占の論理」が潜んでおり、地球の国際関係にも根本的な影響を及ぼす可能性があるからです。
果たして月面は「人類共通の財産」として扱われるべきか。
それとも多額の投資を行った「一部の国家や企業に成果が集中すべき」なのか。
その、複雑で難解な問いを巡る人類の葛藤は、未来の私たちにどのような影響を与えていくのでしょうか。
背景考察
Blue Originの元社員であるRob MeyersonとGary Laiが立ち上げた新会社は、
地球上で希少なヘリウム3を月面から採掘し、地球に持ち帰り販売することを目指しています。
このプロジェクトは、2022年に設立された後、2024年3月15日に1500万ドルの資金調達を発表し、宇宙経済における新たな可能性を示唆しています。
ヘリウム3は、地球上では自然には存在せず、太陽からの融合によって生じるもので、月には大量に存在すると考えられています。
この希少な資源は、超伝導量子コンピューティング産業や医療画像診断、将来的には融合炉の燃料としての利用が期待されています。
―クーリエ・ジャポンー
「1万トンのヘリウム3があれば、21世紀の全人類分の電気エネルギーをまかなえる。」
ヘリウム3は、クリーンかつ高効率の発電方法、核融合炉の燃料に用いられる物質です。
ですが、ヘリウム3は地球上に自然に存在しません。
しかし、太陽風が数十億年にもわたって降り注いだ月面には、100万トンものヘリウム3が存在していることが判明しています。
そう、つまり、「資源の宝庫としての月」以上に期待されているのは、「エネルギー源としての月」なのは明白と言えるでしょう。
「今世紀中には間違いなく、宇宙での資源独占がもたらす新しい倫理的葛藤が人類に突きつけられるだろう。」
月面資源は一体誰のものか?
この問いは、まるで歴史の巻き戻しのように感じられるものでもあります。
例えば、地球の大地もかつてはその土地の住民が所有権を持たずとも、全ての生命の共有物であった時代がありました。
しかし産業革命以降、地球の資源はすべて効率性と利益のために再定義され、「人類の共有物」という幻想が崩れました。
月面資源の利用が進んだ時、果たして人類は同じ過ちを繰り返すのかどうか。
例えば、「金の流れる川」と称されたアメリカ西部のゴールドラッシュを思い出してください。
無数の冒険家や企業家が夢とともに現地に集まり、金脈を求めて争奪戦を繰り広げました。
しかし、「その黄金の果実が社会全体に恩恵をもたらしたか?」といえばそうではなく、それは一部の成功者と資本家に偏る結果に終わりました。
また大航海時代も同様です。
新たな大陸、未知との邂逅を求めて大海原を渡り歩いた結果、「クリティカルミネラルを巡る文明の衝突」が起きました。
そのために「株式会社という仕組みが発明されて今に至る」ものの、その恩恵のほとんどは時の王族貴族や資本家たちの手に渡りました。
月面のクリティカルミネラルを求めて行われる未来の争奪戦。
地球上の数カ国が大規模なリソースを投入し、技術と経済的な支配力を背景に月面の資源を手中に収める姿が見えてくるのではないでしょうか。
この状況が進行した場合、月面資源は「全人類のための共有財産」という国際法の理念が虚構となり、「新たな独占構造」として地球社会を揺るがす可能性が高いと言えるでしょう。
私が懸念しているのは、中国も米国も、「水」があると思われる月の南極に着陸しようとしていることです。
実際、私たちは2023年、月のこのエリアにロボット装置を送り、2024年には水を掘り出す機械も送る予定です。
水はあると私たちは信じています。
というのも、常に影に覆われている岩の裂け目に、氷があるのが見えるからです。
水は重要です。酸素と水素でできていますからね。
酸素は呼吸に使えますし、水素はロケットの燃料になります。
こうした資源となりうるものを、私たちは国際社会のものにしたいと思っています。
中国が南沙諸島でしたように、月にやって来て、その水の所有権を主張するのを防ぎたいのです。
―クーリエ・ジャポンー
かつて南シナ海の南沙諸島は国際水域でしたが、今から約10年前に中国がそこにやってきて自国の領土だと主張して滑走路を作りました。
尖閣諸島を実効支配しようとする中国に対して声を挙げて反発する人は、もれなくこの事実を忘れていない人々です。
その持ち前の中華思想で横暴になりがちな中国は今、2030年に月に宇宙飛行士を送り、2045年に世界最大の宇宙大国になることを目指して動いています。
対抗するアメリカはアルテミス計画を実施、2025年~2026年に月面を踏む予定で動いている最中です。
その中でも注目すべきは、すでに世界25カ国の間で締結されている「アルテミス合意」にあります。
それは、月やその他の天体について、平和的な探査のための基本原則をまとめた常識的な原則からなる合意です。
例えば、宇宙の平和的利用、危険な状況に置かれた場合には互いに協力し合い、連携可能なシステムを持つこと。
つまり、誰かを救出する必要がある場合に備えて、宇宙船に互換性のあるドッキング・システムを搭載させると。
また、「誰かが月に着陸して、そこを自分の領土と宣言し、他者が月にアクセスするのを妨げるような行為を認めない」とするものです。
しかし、批准するのはまだ25カ国なのです。
そして本当にそれが遵守されるかどうかは分かりません。
では、宇宙を人類共通の資産として活用してくために、アルテミス合意のようなアイディアに加えて、他にどのような施策が考えられるのか。
その意味で行くと、例えば、月面資源の扱いを巡る「宇宙信託基金」の設立はいかがでしょうか。
これまでのゴールドラッシュや大航海時代を思い返してみると、1つの法則が浮かび上がることが分かります。
それは、「王族、資本家、大手企業しか対応出来ないくらいに1口がとてつもなく高い投資案件になっている」という点です。
要するに敷居が高い状態から、小口で投資が出来てリターンを基軸通貨或いは光熱費で還元されるような状態が出来ればどうかと。
或いはNISAやiDeCoに代わり、日本政府が全国民のために積み立て、資源分配を国民全体で享受するための個別投資枠を提供してくれたらなと。
その場合、世代をまたぐ未来の話になりますので、不確定要素が強いというギャンブル要素を考慮して、相続や贈与に掛かる税金負担を軽減する。
そうなれば、「自分はこれ以上お金を稼ぐ必要ないし、今さら儲けても生前贈与、或いは相続税でもお金を取られるからもう資産運用に興味が無いです。」という層にもアプローチが出来るのではないかと。
つまり、宇宙信託基金のメリットは、上がっている層(ex.セミリタイアしているご年配)に対して、「確実に資産を未来の家族に引き継げること」が訴求できるということです。
ちなみにそれは、世界的に進行する「後は野となれ山となれ」という独善的な考え方を払拭するために、金銭的資源的な余裕を生み出すだけではありません。
近代化で日本人が手放してしまった、「自分の家族を大切にする」という当たり前だった考え方を取り戻す一助になることが期待出来るでしょう。
「地球資源と月資源、どちらを優先すべきか。」
とはいえ、この構想が現実となったとしても、月面資源を独占する力を持つ国家や企業が果たして「全人類のため」に利益を放棄することができるのでしょうか。
その疑念は拭えません。
しかし、その場合に備えて、もしかしたらアルテミス合意の先には、資源独占に対抗する形で「月面自治政府構想」が控えている可能性が想定できます。
それは、月面における資源利用の管理や公平な分配のため、地球とは独立した意思決定機関を設立し、自治体制の下で月の資源を管理しようというものです。
例えば、南極の一部で観測活動を行うための「南極条約」に基づく国際的な協力体制が整備されてきたように、月面でも地球外からの干渉を排除した独立したガバナンスが求められると。
すると当然ながら、国際連合やG7、BRICSやASEANなどを超えるような。
例えば、国際連合の中にある国際連合宇宙局から、国際宇宙連合(NSN、造語)として独立した称号と共に自治政府を管理・統括していくことになるでしょう。
では仮に、国際宇宙連合(NSN)が設立された場合どうなるのか。
まず、宇宙から地球に対して威圧や環境破壊をもたらさないために、「宇宙エコシステム」と総称された保護協定が結ばれるでしょう。
この制度が整備されれば、月面自治政府は地球の国家間での摩擦を避けつつ、まずは月資源の利用に基づく「持続可能性」を第一とする政策を実現すると考えられます。
とはいえ、もしも月面が独自の法体系に基づく一つの社会として機能するようになったとしたらどうなるのか。
地球とは異なる文化と価値観を持つ「月面社会」が形成され、二重構造の社会が確立されることで、人類全体の価値観や倫理が分裂するかもしれません。
例えば、酸素マスクを外すことや機器の故障が即死に繋がるような環境下だと死は身近なものとなるため、殺人罪の定義が代わる可能性もあるでしょう。
「人類が次に争うとしたら、宇宙に適応する肉体的な進化からではなく、知性や倫理から生じる差異によって相容れない生物進化を遂げた瞬間だ。」
分裂は新たな社会問題や倫理的な葛藤を生み、人々は「我が子孫は地球にとどまるべきか、月へ移住すべきか。」の選択で未来に決定的な違いをもたらす可能性があります。
国際宇宙連合は言い過ぎでしたが、月面資源を巡る国際関係は、地球の資源構造を変えるだけでなく、新たな社会格差の形成に拍車をかけるでしょう。
すでに、月面での資源採掘に投資を行う国家や企業は、月面での採掘権と引き換えに多額の財産を手に入れる権利を主張しています。
独占構造がもたらす影響は深刻です。
「一部の国家が月面資源にアクセスすることで経済的優位性を確保する一方で、他の国々が宇宙へのアクセスを持たないために取り残される。」
そう考えれば、宇宙資源の独占構造は経済的不均衡や社会不安を助長し、最終的には地球上での新たな紛争を引き起こす可能性も否定出来ません。
また、もしも宇宙の資源採掘が芳しくない結果に終わった場合、エネルギー価格が急騰し、地球上の一般市民が経済的に圧迫されることが想定されます。
なぜなら、冒頭にお伝えしたように、本当に100万トンのヘリウム3が月に埋蔵されていた場合、数世紀先までエネルギーが担保出来ることからも巨大投資案件になることは必至です。
言い換えれば、もしも採掘して地球で資源化出来る算段がついた暁には、サウジアラビアのNEOM(ネオム)プロジェクトを超える過去最大の投資案件に成長するということです。
すると国際宇宙基金も国際宇宙連合も夢物語ではなく、個人レベルでさえも数世代先に借金を回してでも投資に参入する方々が登場するでしょう。
その「全人類規模の投資案件」が1つ潰れるわけです。
それはもう、史上類を見ないとてつもないレベルの経済不況を引き起こすことは間違いないでしょう。
月面資源を巡る未来は、単なる科学技術や経済発展の問題に留まりません。
地球の未来と宇宙の未来が交錯するこの物語は、人類の倫理観、文化、社会構造に大きな転機をもたらすでしょう。
私たちは果たして、地球資源に依存する時代を超えて、宇宙の資源を活用しつつも全人類の福祉に寄与できる「宇宙倫理」を見出すことができるのか。
或いは、宇宙でもまた同じ過ちを繰り返し、地球と宇宙が新たな「資源格差」の舞台と化すのだろうか。
そんなことを考えさせられました。
とても壮大なテーマである宇宙の資源の利用や移住について
青木コーチの提唱する「先行者利益」の理想像のようにも思えます
ただ、そう簡単にいかないような気がします
理由は
1.月まで到達するコスト、資源を輸送するための方法、コスト、安全性を考えると現時点では現実的ではない
2.国際ルールならぬNSNがうまく機能するとは思えない。先行者は先行者のそれなりの利益を主張し、先行者の有利なようにルールを作ろうとすることが予想され、平和的にまとまるのは難しい
3.そもそもまだ地球に開発されていない海底資源や地下資源などがあり、それらを開発するほうが月の資源よりも容易で低コスト
ヘリウム3で核融合炉を使うよりも安全なのでは?
4.宇宙活動や宇宙資源を使用することで人体に影響はでないか?また月の資源を採掘することによる月面の変化が地球環境に悪影響を与えないだろうか?
素人考えですが以上の疑問を持ちました
ただ、宇宙投資の話を含め、興味深い内容でした